「浩介ぇ、君は、」
「うるせぇよ」


 止めなきゃ。
 止めなきゃ。
 止めなきゃ。


 何で、嫌な奴なのに、どちらも。
 ううん、そんなの、関係ない。



「いい加減にしてよ!!」



 ネクタイを掴む手を払う。
 解放された五十嵐は咳き込んだ。


「そこまですること、ないじゃん……っ」

「……いいだろ、こんな奴、死んで、も」
「何で香恋ちゃんが泣くのかなぁ、やっぱり君は……面白いね」
「あんたら、おかしいよ……っ」


 泣く、泣いている? 私が?
 瞳から零れてくる何とも言えない温度のそれを拭って、異常な2人を見た。

 どこか動揺したような、いつもとは違う豊平を、五十嵐は笑う。


「浩介ぇ、君は俺を殺して……嫌いな俺と同じになろうというの」


 それは呆れたような、嘲笑だ。


 殺して、同じになる。
 何だ、その言葉は。

 だって、それじゃあまるで。
 そんな言い方じゃ、まるで。



「黙れ、黙れよ……人殺し」



 五十嵐が殺人を犯したことのある人間だって言ってるみたいだ。





+next story→「狂行」

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