「っ!」



 五十嵐の息が詰まる。

 豊平は右足で五十嵐の左手を踏みつけて拘束する。
 僅かに屈んで、ゆっくりと五十嵐のネクタイを引っ張った。

 締まるように引っ張られるそれは次第に布が嫌な音を立てていく。


「……っ、あ」

 微かに五十嵐の口から吐息が漏れる。
 豊平は何もない表情でネクタイを静かに締め上げ、五十嵐の呼吸を奪っていく。


 ――死ぬ。このまま豊平がその行為を続ければ、五十嵐颯は酸素を失って、死ぬ。



「……君、さ、犯罪者に、なりたいの?」



 どこに余裕があるのか。
 首を絞められているのも関わらず、五十嵐は脂汗を浮かべながらも無理やり笑顔を作ってそう告げた。


 豊平は何も答えない。
 ぎりぎりと、 力は緩められそうにない。


 死にそうなくせに。
 五十嵐は笑っていた。


 クラスメートがそんなことになっているのに、誰も止めようとしない。
 そんな場面はとても滑稽で。
 そんな世界に存在している私は、とても惨めで。


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