ぱ、といとも容易く手が離されて解放される。
がくり、と崩れ落ちそうになるのを、なんとか壁に手をつくことで回避した。
「ない、なんて言わないよねぇ? ……少なくとも美園ちゃんは、こういう目にあったんだからさぁ」
……そうだ。
美園は、こんな、恐怖を。
……味わったんだ。
「少しでも回避できる可能性があるのなら、俺はいくらでも利用してもらって構わないよ?」
「……っ、でも」
「でも?」
「あんたも少しくらい……少しくらいは怒るなり悲しむなりしてもいい、じゃん!!」
私の言葉に、五十嵐はぽかんとした表情を浮かべてからけたけた笑う。
何が楽しいんだ、何が。
私は怒っているんだぞ。
「それだとぉ、俺のために怒ってくれてる、みたいだぜ?」
「……そんなんじゃない!」
この、自意識過剰が!
ぷいと顔を逸らすとまたくすくす笑い声が聞こえる。
[6/7]
[*prev] [next#]
[mokuzi]
[しおりを挟む]