ヒロの困ったような声が聞こえた。
少し行った所でがしりと腕を掴まれて動きを止められる。
掴んでいたのは五十嵐で。
意外だ、こいつが人を引き止めに追いかけて来るなんて。
「香恋ちゃぁん、雰囲気を悪くして逃げるなんて、最低だぜ?」
へらへら、へらへら。
本当こいつは、見たくなくなる。
「あぁ、ごめんなさいね。謝っておいてくれる? 雰囲気悪くしてごめんなさいねって」
「なぁんでそんなに怒っているの? ひかりちゃんとひかるくんは何も間違ったことはしていないだろう?」
どこがだ。
あれが、間違っていないというのか。
私欲のために、人を利用するなんて有り得ないじゃないか。
表情に不満が漏れ出していたのか。
五十嵐は苦く笑ってから――表情を消した。
両腕を絡め取られて、壁に押し付けられる。
すぐ近くに五十嵐がいて、そいつに見下された。
蛇に睨まれた蛙みたいだ。
力、強い。
逃げられない。
顔が、どんどん近付いてきて、ぎゅうと目をつぶった。
「――ほらぁ、こんな風に、望んでもいない相手に無理矢理……なぁんてこともあるわけでしょお?」
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