いちるちゃんを抱きしめれば、彼女の息が詰まった。


「友達じゃなくて女の子として、いちるちゃんが好きだよ」


 再びそう告げて。今度は勘違いされないように、はっきりと。
 え、だなんて戸惑う彼女が面白くて思わず声を漏らして笑った。


「だからさ、自分がどんなに酷いことになったとしても、守りたかったんだよ。好きな子だもん、当たり前だろ」



 1時間目は何だっけ。
 地理だったか。移動教室か、他のクラスと合同の教科だからまだうるさい人間はいないだろう。
 いいか、いっそのことサボってしまえば。

 今日の部分は個人的に勉強すればいいわ。できないようなら、教えてもらえばいい。
 へったくそな教え方を、からかいながらさ。自分の腕の中で泣きじゃくる彼女に、教えてもらえばいいんだ。


 だから、今は。
 今は、このままで。このままでいよう。

 学生にとって「勉強」が何よりも大事だなんて、あの担任は口にするけれども。多くの教師は勉強が大事だと吐き出すけれども。

 俺は、今が……彼女が、大事だから。


 俺はいちるちゃんの笑顔が好きでさ、大好きだから。


 だから、



「笑って、いちるちゃん」






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