「それとも何? 豊平の言葉でも、気にしてんの?」
いちるちゃんが明らかに動揺する。あぁそう、そのせいで。
彼女の反応も気にしないふりをして俺は言葉を続ける。
「……あれは忘れた方がいいの? それとも忘れなくていい?」
いちるちゃんが、静かに。
ようやく、口を開いた。
「……忘れないで、ほしい。 でも、っ、知らないことに、して」
どういうことだ。めちゃくちゃじゃないか。
覚えていてはいいけれど、知らないふりをして、何もないかのように友達でいてほしいとでも言うのだろうか。
簡単だ、そんなの。俺はフェミニストだからね。
……なぁんて、言うわけないだろ。
「そう、じゃあ、友達の“ふり”をこれからはしていけばいいんだ」
いちるちゃんは悲しそうな顔をする。
1時間目の開始のチャイムが響く。廊下にはすでに誰もいない。
「いちるちゃんが何を心配してるのか、わからないんだけどさ、俺はいちるちゃんが好きだよ」
さらりと吐き出した告白を、彼女は「友達として」好きだと言ったと思ったのだろうか。
言ってることがぐちゃぐちゃになっている俺に、首をわずかに傾けた。
雰囲気もへったくれもない愛の告白は通じることはない。
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