ちらりと彼女に視線を向けた。美園は何にも興味なさそうに、ノートと教科書を手にして移動しようとしているところだった。
「自分のことを棚にあげたって牡丹餅になって返ってくるわけじゃないんだぜ? 問題は問題のままだ」
問題を無視してたって何も変わらない。そんなこと、わかってる。私自身がよくわかってるけど。
「人は前に無理やり進ませるくせに、自分は後退しようとするなんて。君はとっても、卑怯な人間だね」
わかってる、わかってるよ。
だから。
「わかったように言うな……!」
それこそ人と仲良くしようとしない。
……逃げている人間に、そんなこと言われたくもない。
「ヒロ、また後で」
「あ、うん……」
選択教科が違うヒロに手を振って、私は教室を離れる。
「……美園、」
彼女に声は届かなくて。
届いていても、受け入れられなくて。
少し前を歩いている美園に、ぽつりぽつりと言葉をこぼしていく。
「良かったら、さ。美園、バーベキュー行かない? 五十嵐は胡散臭いけど、肉、美味しいだろうし」
何か、何かを。
何でも良いから言葉を紡げ。
「私は、美園と……もう1度仲良くしたいよ」
彼女は振り向かない。
私の、言葉は……届くことはなかった。
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