陽那が小さく呟く。その言葉はその通りで、誰も五十嵐の元へと言葉を伝えに行く者はいない。
 まぁ今行ったら豊平が面倒くさそうだから、後で参加したい人は言いに行くのかもしれない。参加者がいるのかはわからないが。

 現時点で2人。五十嵐とボブ。
 ……うん、このメンツで豊平とか鈴木さんとか桜庭とか、危害を加えようとする人間は来ないのではないだろうか。
 自由だからと言って五十嵐に喧嘩を売りに行く人間がいなければ、だが。


「そうだね……私は参加するかな」
「はっ?」


 私の言葉に陽那が素っ頓狂な声を漏らす。何だか面白いね、その反応。
 呆れたような困ったような顔を向けてくる陽那。
 彼に私は笑顔を作っては向けて、今の彼にとって困難であろう言葉を簡単に向ける。他の人には聞こえないように。


「私はヒロを誘って、五十嵐に伝えるよ。陽那はいちるを誘って」


 私の言葉に陽那は当然のように苦虫を噛み潰したような表情を作る。


「……逆にしない?」
「却下。陽那が、いちるに声かけて」


 別に私がいちるに声をかけることを嫌がってるわけじゃない。可愛い可愛い友達に声をかけることを嫌がるわけない。あっちが嫌がったって、無理にでも言葉を伝えてやる。


 陽那は口を噤んで目を瞑った。


「……わかった、よ」

 緊張を誤魔化すように、陽那は自身の黒縁眼鏡を1度外して、何をするでもなく再び丁寧にかけなおす。



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