「だぁれが参加するかよ……なぁ?」


 豊平のその一言で、良くなった気がした空気がまた悪くなる。牽制するような、威圧するような声色だった。
 そうやって豊平は、クラスメートの自由を奪っていく。


 五十嵐が何か考えるような表情で豊平を見る。
 思いついたように手を合わせて、相も変わらず雰囲気にそぐわない笑顔を浮かべては安売りしていく。


「じゃあこうしようかぁ。『上位の抑圧は気にしなくて良く』て、『イベント中は上下関係制度は停止』だ。休日な上に学外イベントなんだから当然だよねぇ」

 五十嵐は瞳を細めた。
 笑っているくせに目が笑っていないそいつの瞳は冷たい氷のようだ。


 彼の心底は、本当に理解しがたいし理解できない。
 何を考えているのか。何がしたいのか。
 わかる人間など、ここにはいない。いるはずがない。あいつはこの教室で1番頭が明晰で、他人に目を向けようともしないはずで、腹の読めない人間だった。


 豊平の舌打ちに、ヒロの肩が僅かに揺れたのが後ろの席でもわかった。



「浩介ぇ、邪魔はしないで欲しいなぁ。俺は“学生の長期休暇”を楽しみたいだけ、なんだぜ」
「……常識人かぶりの異常者が」
「俺は別に常識人ぶってるつもりはなかったよ? もちろんこれからも、常識人ぶるつもりもないしね」


 にこやかなそいつに、豊平は悪態をついた。


「呉越同舟、仲良くしようぜ。参加してくれる心優しき少年少女は俺に声かけてねぇ」


 仲良くしよう。やはりこの成績で争う勉学戦争が起こっているようなクラスには似合わない単語だ。
 動揺したクラスメートが戸惑う中、五十嵐は楽しそうに目を細めては教壇を降りた。



 ……バーベキュー、ねぇ?

「……誰が参加するんだよ、そんなもん」



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