「夏休みだねぇ」
いつの間にか私の前の席に座っていた五十嵐がにこやかに言葉を発した。
あなたみたいなクラスのトップはどうぞ優秀者の席にいやがってください。
「なんであんたが私の目の前にいるの」
私の前の席は龍ヶ崎さんの席のはずだけれど。席の主である彼女は先ほど来たらしく、けれども教室で1番の成績を修めている五十嵐に何も言えないらしく黙って目を逸らした。
「龍ヶ崎さん、座れなくて困ってるケド」
陽那の嫌そうな言葉に五十嵐は立ち上がる素振りも見せずにけろりと笑う。
「あぁ、奈緒ちゃんごめんね、ごめんごめん。後ろの席って前と違って居心地がいいものだから」
「……成績下位を馬鹿にしてんの?」
「そんなことないさぁ。本当の感情を俺は表出しただけさぁ」
そいつは私の顔を見て満足したように楽しげに笑うと、龍ヶ崎さんの席を立って前へと向かった。
先生よろしく教卓の前を陣取って、手を叩く。
クラスの注目を集める五十嵐。
「暇じゃない皆さんにイベントのお知らせだぁ。夏休み初日、バーベキューやるんだけどさぁ、誰か参加しない?」
ば、バーベキュー?
私も隣の陽那も。
クラスメート誰しもが。
驚いた顔をする。
クラスが、呆気にとられた空気に包まれた。
こいつは何を言っているのかと、ほとんどの人が思っているのがわかる。そりゃそうだ。
そんな、友情を深めよう! みたいなイベント、誰が参加するのか……こんなクラスで。
「会場は学校に近いボブのマンション」
「大家さんは迷惑にならないなら多少は騒いでいいって言ってたヨ」
楽しそうに、ボブは笑う。
彼の笑顔で、少しだけ教室の空気が良くなった気がする。
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