私の言葉に豊平は中指を立てて舌を出すことで否定の意を返してきた。



「じゃあそれの片付けよろしくな磯村ぁ? いいだろ“オトモダチ”なんだからよぉ」



 ひゃはは、とうざったしい笑い声をあげて田中の方を見た豊平は荷物を持って「用事があるから帰る」と教室を当たり前のように出ていった。


 田中が教卓の前に立って、生徒が大怪我しているのに目もくれず笑顔を浮かべた。




「“そう”なりたくなければ全員しっかり勉強するように。じゃあ今日は連絡は特にないので解散」




 狂ってる。
 おかしい。


 誰も、異常さに気が付いていないかのように教室を出ていった。


 私とヒロはいちると陽那に駆け寄って、声をかけようと、する。




「――わからないよ」



 いちるが、静かに呟いた。



「結局……結局、怖くて、逆らえなくて。私、私、酷いことした、最低なこと……した」



 ぼろぼろと泣くいちるに、声なんてかけれなかった。

 私には何も言えない。
 私には何もできなかった。
 私は救うことなんて、できなかった。



 陽那に触れて、謝罪を繰り返して。


 陽那にいちるの涙が落ちた時、ゆっくりと彼女は立ち上がりふらふらと歩きだした。



「――ごめん、ね」






 その日から、いちるは。

 私たちを避けて、近付こうともしなかった。
 陽那のお見舞いなんて1度もしようとしないまま、彼女は自らひとりぼっちになることを選んだ。


 私はまた友達を救うこともできないまま

――夏休みが、目前に迫っていた。





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