「……豊平じゃないんだから、女の子の前で、そんなカッコ悪いことするわけないデショ馬鹿じゃねぇの」


 彼は何を思っているのか――ただ単に彼の好きな憎まれ口を叩いただけだろうけど、そんなことを口にして顔を上げる。

 言葉と裏腹に顔は辛そうで、脂汗が伝っていた。



 豊平の顔が笑顔から冷めたものに一変して、そいつは陽那を力強く蹴り倒した。

 周りの席の人たちが悪態をついたりわずかな悲鳴を漏らしたりする。




「――じゃあ、もう1回」


 冷たい声で、豊平はいちるを睨む。



「やれよ。左なんてぬるいことしてねぇでよ、利き手をざっくりとやれや」




 豊平の蹴りが陽那のお腹に直撃する。

 陽那は悲鳴を押し殺して、舌を出して反抗心を見せた。



 いちるは操り人形のように、壊れた人形のように。
 豊平に逆らうこともせずに繰り返し陽那を刺した。


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