「お前が“傷つく”ことに意味なんてねぇーんだわ。誰かが誰かを“傷つける”ことに意味があんだよ、残念だけどよぉ」


 ぱ、と拍手で仲良しこよししていた豊平の手のひらが離別する。

 傷口を押さえている陽那を見下すように眺めて、口を開く。




「じゃあもう1回」



 豊平が陽那からカッターを奪って陽那にわざとらしく向けた後、再びそれをいちるに渡した。


 いちるの声が、ひ、とひきつる。




「あんくれぇは刺して大丈夫だってよ」

「……っやだ、できないっ」

「津田川はやればできるって。テストでも順位上げれたんだからよぉ」




 いっそのことこれが滑稽な作り話であればいいのに。
 何もできない自分に、私は拳を握りしめる。

 私が下手に出てしまえば、陽那やいちるへの被害が大きくなってしまうかもしれない。
 そう考えてしまって動けないのは、現実か言い訳か。



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