わかりませんと言うのか。
豊平は両手をひらひらとあげて笑う。
「ほら、偉大な先生様が見てるぜぇ? いいのかよ上位に逆らって」
陽那は少し黙って、豊平から手を離した。
いちるからカッターを奪い取った陽那はそれを逆手に持つ。
カッターを、自分の手首に勢いよく突き立てた。
赤色の液体が彼の傷から飛び出して。
いちるの顔にわずかに飛んだ。
彼女は恐怖や罪悪感が混ざったような表情で陽那を見ていた。
私の息は詰まって、ひゅうと音を鳴らす。
こんな異常な出来事を前にしたって、悲鳴も何も起こらないような異常な空間。
感覚が、おかしくなりそうだ。
「……っ。ほら、これでいいんだろクソ野郎」
「いやいや、すげぇな。そのダイナミック自傷行為には恐れ入ったわ」
教室に豊平1人の乾いた拍手が響く。
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