*After story Mirai*




赤。
ピンク。
水色。


様々な色をした煌びやかなドレスが目の前に並んでいる。


「妃代先輩、何をそんなに悩んでるんですか」


隣で待ち続ける未来くんは呆れ顔だ。


いやいやいや、そりゃあ悩むでしょ。
派手なドレスを前に何を悩んでるかというと……



時間は数十分前に遡る。






「妃代先輩」

いつものように、未来くんが話しかけてきて。
いつものように、笑顔で反応を返した。


今日も数日前からデートの約束をしていて。


『何処へ行こうか』
なんて話す。


今日は街を適当に歩き回って映画だとかいいな。
今人気のラブストーリー、すごく面白いんだってまややんが言っていたし、それもいいかもしれない。

うーんでも、未来くんはラブストーリー好きじゃないかな?
私はぶっちゃけそこまで好きじゃないし、動物感動ものとかどうかな?


「あぁ、それなんですけど……僕、今日街に行けなくなりまして」

『あ……そうなの』



少し、残念だな。

まぁ、まだまだ時間はたっぷりあるし。
また今度にすればいい。


未来くんは首を少し傾けて思案する。


「というか、急で申し訳ないんですけど……妃代先輩も来ていただくことになるわけですが」

『……何に?』

「まぁ、たまには僕に合わせてくださいね?」


にんまりと彼は笑う。
だから、何に!

嫌な予感がして、くるりと回れ右。
よぉし、寮に帰ろうか!



『ちょっと用事思い出した!』

「はぁ」

『蓮にね!バイト誘われたんだよね!』


「ついさっきまでデートどこ行く?とか話していたのにそんな言い訳が通じると思ってるんですか?」



ですよね!
無理ですよね!


未来くんは呆れたように息を吐いてから、目を逸らした。


「別にいいんですよ?恋人の僕より、蓮先輩の方が大切なら、それで」


……ちょっと、寂しそうな表情をしないでくれます!?
私今とても罪悪感に襲われています。



『……断らないから。何?』

「はい!今日パーティーに参加しなくてはならなくなってしまったので妃代先輩も一緒にお願いします」


にっこり、紳士の笑顔。

ぱ、ぱーてー?
ぱーちー!


『お誕生日パーティーとか?未来くんの誕生日夏だし、もう終わったじゃん』

「いえ、普通のパーティーです」


普通のパーティーって何。
私誕生日パーティーとかクリスマスパーティーとかしか知らない。

平日に行われるパーティーなんて普通じゃない。



『参加自由なラフなパーティー?』

「会員制のパーティーですけど」


あぁ、もう普通じゃないわ。


未来くんは思いついたように私を見た。


「ドレスコードあるのでドレスを用意しなければいけませんね」


ドレスコード。
高校生でそんな言葉そうそう聞かないと思うんですけど。


未来くんに手を引かれて、いつの間にか高級車に乗せられて。


気が付けばドレスショップ。
そして現在に至る。



『派手すぎても目立っちゃう?でもでも、会員制高級パーティーなら大して……』

「ドレス着てれば問題ないですって、母も父もそんな気にしな……」

『ご両親もいるの!?』

「あっ」


言ってしまったと言わんばかりの表情を浮かべる未来くん。
何だそのあからさまに隠してましたみたいな顔!


問題増えた!問題増えた!



『胃が痛くなってきた……』


「いいじゃないですか、そろそろうるさいんですよ、特に母が」


妃代先輩に会わせろって。
未来くんが観念したような声色で呟いた。


ご両親にご挨拶するの。
無理。無理無理無理。

緊張で吐きそう。


まぁ、私の親もうるさいけどね!

今日は黒松両親に会うなら今度未来くんもうちに来てよね……!



「たまには僕に合わせたデートも楽しいじゃないですかぁ」

『楽しくない胃が痛いトテモ』



あなたはそんな弱くないでしょうと笑う。

この彼氏、とても酷である。



『姑の小言が飛んでくるんだー!うわー!』

「気が早いですよ妃代先輩。僕の母を何だと思っているんですか」


妃代さん!ここに埃が落ちてますよ。
庶民は掃除もできないんですか?的な。

なにそれ怖い。



『お母様は何色が好き!?ドレス何色がいい!?』

「落ち着いてください、店に迷惑かけてますから」

うるさいか。
すみませんでした。


未来くんは呆れたように腕を組んで、目を伏せる。

え、呆れないで。
ごめんって。



「僕はそれが好きですよ」



これ?

今試着しているドレスのことか。


濃いベージュのドレス。
ウエストに黒のリボンがついていて、可愛い。


『そっかぁ……じゃあ、これにしようかな……?』



うん、未来くんが好きって言ってくれたし。可愛いし。

落ち着こうとりあえず。



未来くんが嬉しそうに笑って、私の手を引いた。



「とても似合っています」

『あ、ありがとう』

「じゃあ行きましょうか」

『お金は?』

「もう払いました」


は?早い!

っていうか、私が払うよ。自分のだし!



『いくら?払うから……』

「聞かない方がいいんじゃないですか?」


……一体「0」がいくつあるんでしょうかね。
ゆっくり返していこう、うん。

今は聞くのやめておこうかな!


メイクやらなんやらときらきらにされる。

その間に着替えてきたらしい未来くんがスーツ姿で現れた。


かっこいいな。

身長も伸びて、さらにかっこよくなって。
身長で馬鹿にできなくなったんだよね、むむ、悔しい。


またまた車に乗り込んで、着いたのは。

……港。


『船……?』

「客船ですね」


これはあれか、豪華客船か。

待って、パーティーとかホテルとか家とかでやると思ってたんだけど。
船か!
船酔いとかしないの大丈夫?



「段差、気を付けて下さいね」


ゆっくり、ゆっくり。
慣れないヒールで段差を上がっていく。


客船の中に入るとパーティー会場らしいところにはすでに多くの人がいた。


『……テレビで見たことある人、いるんだけど』


政治家とか、有名人とか。
何これ何これ。

場違いすぎでしょ、私。



 

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