Ren-3





私の言葉を気にせずにくっくっと蓮は笑う。



「俺は親鳥か」
『……飲み物取ってくるっ』


馬鹿にしてっ!

……楽しそうだから、いいけどさー。



オレンジジュースを手にして、席へと戻ろうとした。

私たちの席は、多くの人に囲まれていた。


……?

蓮は楽しそうに、話をしている。
友達、だろうか。


……女の子いっぱいだ。
きれいな人ばっかり。


保育だから?
女の子多いの?


「蓮、一緒に遊ぼうよー」

「だぁから、彼女と来てるんだっつってんだろ」

「え、彼女来てるの!?見たい!」

「今飲みもん取りに……あ、いた。妃代ー」



あ、見つかった。
視線が一気にこちらに集中。


「大したことない」と言われている錯覚。

『……』

どうしよう。



「ねぇねぇ彼女も一緒でいいから遊ぼうよー」


女の人にそう言われて蓮が戸惑う。
わかってるよ。
蓮は優しいから、断れないんだよね?


でも、でもでもでも。
……久しぶりに会ったのに。


嫌だよ。


私はテーブルに力強くオレンジジュースを置いた。
蓮の友達は嫌そうに私を見る。



馬鹿。



『……私帰るから、友達と遊んでれば!?』

私は蓮を無視して走り出す。

彼の声なんて聞こえない。
知らない知らない知らない!



店は先に払うタイプなのですぐに出ることが出来た。




追いかけてこない。

たぶん友達に止められたんだ。


駅内のアウトレットのようなタワー。
普通はウィンドウショッピングでも大分時間を潰すことができる。



走り疲れて人の邪魔にならないような細い、人の少ない通路で止まった。



友達は大切だよ。

でもさせっかく久々に会えたんだから2人きりが、良かったんだ。




そして逃げ出す私も、馬鹿。


感情がぐちゃぐちゃになりだして涙が出そうになるのをこらえてしゃがみ込む。





馬鹿。
蓮の馬鹿。

馬鹿馬鹿バカバカ。


うましかやろー!




「邪魔」




視界に高そうなブーツが映る。


上から綺麗な声が降ってきた。
所謂イケボとかいうやつ?



前に人が立っているのか。

邪魔ってなに、邪魔って。



あ、そうか。
ここの道細いから通る人には邪魔になってしまう。



人があまり通らないかなと思ったらトイレまでの道だったようだ。



トイレから出てきた人か……




『すみません……』


ふと顔を上げると男の人が私を見ていた。



モデルのような綺麗な顔立ち。
体型もすらっとしてて、綺麗で、服もかっこよく似合っている。


いや、でも蓮もよく見れば綺麗な顔なんだよ、キリッとしてるし……目つき悪いけど。
男らしいし。

あれ?蓮の方がカッコいいんじゃない?


「……おい」


私が中々退かないからか、苛立った様子で私を睨んだその人。



『すみませんでした!』

立ち上がって道をあける。



男は溜め息をついて歩き出す。


歩き方がヤンキーだ、かったりぃーって感じだ。
せっかくカッコいいのに。


「……んだよ、見てんじゃねーよ貧乳ブス」
『なっ……』


貴様は今言ってはならないことを……!

ていうか失礼!超失礼!
別のことで苛立ってくるなんて!





『ひっ、貧乳って言う方が貧乳なんだよトイレ男!』

「男なんだからあるわけねーだろボケ!」


なんだこいつ!
トイレ男、初対面なのに!

腹立つ!


くすくす笑いながら近づいてきた男たち。
……トイレ男の友達のようだ。


「玲ちゃーん、偶然見かけたと思ったら何やってんの?」

「あ?」



この喋り方、容姿、そして眼鏡。
私が知っている人物だ。


『……御門くん!?』

「はいっ!?あっ、え、妃代ちゃんじゃん!」

『じゃあそっちは陽くん!?』

「こんなのとセット扱いやめてくれ不愉快だ。久しぶりだな桃瀬」

「陽ちゃんひどくない!?」





たしか2人は大学同じだったし!
トイレ男も同じ大学なのか!

うわー陽くんカッコよくなってるー。
うわー御門くん変わってない変にチャラいー。


「妃代ちゃん、蓮ちゃんは?帰って来たってことは会ったんじゃないの?」


その言葉に黙り込む。
……半分くらい忘れてた。


「……喧嘩か」

『ちっ、違いますぅー蓮が悪いんですぅー』




陽くんが呆れたように溜め息を吐いた。

うわーい、呆れないでよー。



「何したかはわからないけどさ、仲直りしなって。蓮ちゃん、妃代ちゃんに会えない時いーっつも寂しそうだったよー」

『……あんだけ綺麗な友達いたら寂しいとかないでしょ』



そうだよそうだよ!

デレデレしちゃってさ!

蓮のムッツリ!ばーかばーか!


御門くんまでもが苦笑い。
何さ。




トイレ男が馬鹿にしたように笑った。


「はーん、青峰の彼女ねー、ふーん」



何だこいつ。
蓮を知っているのか。


馬鹿にしたようにニヤニヤ、ニヤニヤ。


殴りたい、この笑顔。



「俺の彼女の方が何万倍も可愛いな、当たり前だけど」
『彼女いんのこいつ、私こいつよりは御門くんの方がまだマシなんだけど』


彼女さんどんだけMなの?マゾなの?


トイレ男が睨んでくる。
御門くんが高らかに笑った。

「玲ちゃん彼女にはデレデレだからー、ていうか妃代ちゃんまだマシって言葉が余計だよ」



クソ、そういうタイプか。
性格悪いのバレて別れろ!


『……私帰る』


帰ってふて寝してやる。


ふいに、誰かのケータイが鳴る。

トイレ男が電話に出た。




私は帰ろうと足を動かすと、御門くんに呼び止められる。

「……知ってる?蓮ちゃんね、寂しいと煙草吸ってるんだよ?」


寂しいと、吸うの?



「本人も気付いてないだろうけど、妃代ちゃんの話になったらいーっつも吸ってたもん」


楽しそうに御門くんが笑った。
仲直りしなよと、御門くんが言う。


電話を終えたトイレ男が私の腕を掴んだ。



『……何』

「来い」

『は?』

「いーから来い!じゃあな陽と壮介」


『ばいばいっ、2人共!』



トイレ男に腕を引っ張られて、歩いていく。



どこに行くのか。
話しかけても無視。
無視しやがる。


駅にあるよくわからない形をしたオブジェが見えてきた。

普段は待ち合わせの目印に使われることが多い。



そこで、エレベーター前で会った女の人と話している蓮が視界に入る。




あー、また。
モヤモヤする。

また違う子と話してる、仲が良さそうに。


私の手が離された。



「華!」



トイレ男が、エレベーター前で会った女の人の元へと走っていった。



あれ?

彼女がいると言っていた。
女の人は彼氏がいるらしかった。


え、あそこカップル?
人が良さげな女の人、騙されてるんじゃない?

あ、デレデレなんだっけ。






「……妃代」


蓮が私に気が付いて歩いてくる。



「その……ごめん、な」

『……煙草』


私は蓮がくわえている煙草をじっと見た。


「は?えっ、あ、悪い!」



すっかり忘れてたようで慌てて火を消す。
……いや、私はいいんだけど。


喫煙するのは別の所じゃないと駄目じゃないかな。
……じゃなくて。



『私が、ごめん』



くだらないことで、怒って。



そうだよ、せっかくいきなりのことなのに会ってくれたのに。
蓮の友好関係を狭めたいわけじゃないのに。


心が狭すぎるよね。


私の言葉に蓮は呆れたように私の頭を掻き回した。


「何でお前が謝るんだよ」



小さめの声で、低く呟いた。



「俺が悪かった」

『違う、私が悪かったの』

「いや俺が大学の奴らあしらわなかったから悪いんだろ!」

『我慢しなかった私が悪いの!』


「うわ、うぜぇ」


突然口を挟んできた、トイレ男。



そして周りの視線が痛い。
通る人たちが言い争っていた私達を地ちらと見ていた。




「ちょっと、玲」

「待ち合わせ時間になって華から電話来たと思ったら青峰の彼女探すの手伝えーとかだしその貧乳ブス隣にいるし、連れてこいとか言われるし」



ま、また貧乳ブスって言った。

大きければ偉いわけじゃないんだからね……!



トイレ男は腕を組んで、私たちを睨んでいた。


「連れてきたら自分が悪ぃ合戦始まるしアホか、つか俺たち巻き込んでんじゃねーよふざけんなよマジでクソ峰」


本性出てますよ、彼女に嫌われろ。
女の人……華さんはトイレ男に口が悪いとしかりつけた。


あれ、性格知ってるの。
知った上で付き合ってるの?

すごくないそれ。



「……悪かったよ。つかもういーし。加賀も玲もありがとな」

「良くなくても行くわもう知らんわ」

「じゃあね蓮くん」

『何か……ごめんなさい』



私の言葉に2人が私を見る。
トイレ男に言ったんじゃない、華さんに言ったんだ。



「大丈夫、あんまり喧嘩しないようにね?」


華さんいい人だ……



2人は街の方へと歩いていった。

蓮がちらりと私を見た。



『……ごめ』
「もう謝るのナシにしねぇ?」


蓮が苦笑する。

キリがない、と頭を掻いた。
ここは1つ、どちらも悪かったことにしようと。

……それもそうだね。
くだらないことでまた言い争いになるのも嫌だ。


「そーだ、さっき家に連絡したらちーとしゅんが『ひよこさんに会いたい』ってぇ言ってたんだけどよ」


千絵ちゃんと俊太くん!?
可愛い2人は成長したのだろうか。


私も会いたい。


「良かったらウチ来ねぇか?」
『行く!』



即答した私に蓮が笑う。

「じゃあ車に戻るか……ん」



手を差し出してきた蓮。
彼の手に、指を絡めて、手をつないで歩き出す。



『あのね蓮、寂しい時は電話くれてもいいんだよ』

「あ?」


不思議そうに首を傾ける彼が何か可愛くて、思わず笑う。





嫉妬したんだよ、ごめんね。

大好きだよ、蓮。


*Afterstory Ren fin*


 

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