*After story Ren*
飛行機が飛ぶ音が聞こえる。
たくさんの旅行者で賑わっている。
空港、昼前。
どうやら夏休みを利用して遠出をしたり、地元に帰る人が多いよう。
私は、後者だ。
大学は地元を遠く離れ、別の県へ。
私はケータイを取り出し電話帳から彼の名前を探した。
通話ボタンを押すとコール音が続く。
……中々出ないな。
ようやく繋がった電話。
電話先の彼は眠たそうだ。
「……ふぁい」
『ごめんね、起こした?』
「いんや、龍馬に起こされたから、だいじょーぶ……」
やっぱり今まで寝てたのか。
まだ布団の中にいるらしく、ごそごそと身動きして布団とこすれる音がする。
うーん、着いてから電話した方が良かったのかな?
「つーか、どした?朝に電話なんて珍しいな」
『眠たそうだし、あとでまた電話しようか?対した用でもないし』
「いーよ。もう起きたから」
このまま寝てしまいそうな声色してますけど大丈夫ですか。
蓮は何かに気付いたのか言葉を続けた。
「……なんか騒がしーとこにいんな。出掛けてんのか?」
『あ、うん』
サプライズで着いてから連絡するのも有りかもしれなかった。
当日まで黙ってる時点でサプライズかもしれないけれど。
私は持っていた大きめの鞄を肩にかけ直す。
『蓮、今日暇?』
「んー……おー、暇」
『そう、良かった!今からそっちに行くから』
私の言葉に蓮は黙る。
あ、驚いてる。
「……は?今日?Today?」
『いえす、とぅでい。今空港』
発音に差があって悔しいな。
というか混乱しすぎじゃない?
「もう着いてんのか?」
『えっとねえ、10時の飛行機乗るから……12時前くらいに着くと思う』
電話の向こうから聞こえる動く音。
リビングかどこかに移動したのか青峰家の方々の声が聞こえてくる。
相変わらず楽しそうだなぁ。
「わかった、迎えにいくわ」
あー、テンション低い。
急だから……怒らせちゃったかな。
『ありがとう』
「ん。気ぃつけてこいよ。着いたら電話くれ」
そういって切れた電話を眺める。
あ、どの空港か言ってないや。
でもあそこら辺の空港なんて1つしかないし、大丈夫だろうけど。
ケータイの電源を切って飛行機に乗るべく私は移動することにした。
飛行機に乗り、1時間とちょっと。
もうすぐ着陸するとアナウンスが告げる。
私は身につけていたヘッドホンを外した。
学校の方蒸し暑いし。
北の方に位置する地元ならまだ涼しい、と信じてるよ。
無事着陸して飛行機を後にした。
コンベアーで流れてくる荷物から自分のものを探す。
見つけて手にとって、降りてくる人を待つ人々の中へと紛れる。
蓮、いるかな?
電話しようかな。
ケータイの電源をつけて起動するまでの間、ふと上を見上げた。
……あ、見つけた。
私の愛しい人。
彼の、後ろ姿。
きょろきょろしているがこちらには気付かないようだ。
うしし、ビックリさせよう。
人ごみにまぎれて蓮へと近付いていく。
『わっ!』
そういって抱きついてやった。
びくり、蓮の体が驚きで揺れる。
「おわっ」
そう声を漏らして蓮が後ろを見た。
「びびった……元気そうだな」
吸っていたであろう煙草を携帯灰皿にじゅっと捨てる。
あら、前髪が降りてる。
何だか印象が変わるね。
『うん、元気!』
「そうかそうか、ちょっと離れろ」
テンション低いなー今日来なかった方がよかったかな……?
しぶしぶぱっと離れると向き直った蓮が、私を抱きしめた。
「おかえり、妃代」
『うん……ただいま』
いつものような優しい声が私の耳をくすぐる。
抱きしめてくれた彼からは少しだけ煙たい、大人の香りがした。
いつぶりだろうか。
こっちに帰ってきたのは冬だったか秋だったか。
半年ぶり、くらいか。
蓮の車に乗って空港から移動する。
車は、あの大家族が乗れるように大きなワゴン車だ。
『かっこいいよねーこの車』
「ははっ、そりゃどうも」
無邪気に笑う蓮。
テンション低いのは眠かっただけらしい。
よかった、来ちゃだめなわけじゃなくて。
優しげに家族の話をする彼。
微かに香る煙たい臭い。
さっきも思ったけど
『……蓮って煙草吸うようになったんだ』
私の言葉に不思議そうに首を傾けてから、あぁ、と言ったように口を開いた。
「……まぁ、それなりに。もしかして臭うか?」
『あ、いや、煙草の匂いは嫌なわけじゃないけど』
変わったなぁって。
免許を取って、車を運転して。
煙草を吸って。
一気に大人になってしまったような気がする彼を横からじっとみつめる。
……私は。
私は、変われているのだろうか。
「ん、どした?」
『うん、前髪下ろしてるのもカッコいいねーって』
「……前髪あげて実習行ったらな、子供に、怖がられて」
思わず笑ってしまった。
蓮がバツの悪そうな顔をする。
あぁ、そっか、実習。
保育士の資格を取るために実習行ってるのか。
たしか彼の大学は3年制だから、今年度で卒業か。
「したらよぉ、髪あげなきゃいんじゃね?って大学の奴が言うから」
『まぁ下げても不良顔だけどね』
「おい」
『冗談冗談』
前髪上げてるだけでちょっと怖い印象与えちゃってるからねー、蓮。
私が笑っていると蓮が笑って呆れたようなため息をつく。
「お、そうだ。昼どこいく?」
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