*After story Yamato*
あんなに希望に満ちあふれていた高校時代。
結局学力及ばず、大学は実家に近いそんなに学力が高くない大学へと進学した。
大和さんはバカにしたあとに、会えなくなるわけじゃないんだからと私を慰めた。
でも、2人の大学はそんなに近くはなかったんだ。
会えなくなるわけじゃないが、会う回数は格段と減る。
「お前が会いたいって言ったら、会いに行くよ」
そんな、本当にやりそうなことを微笑んで言う。
無理させたくないから、会いたいということを我慢して。
あれから、そう、6年。
大和さんと出会ってから約6年の時がすぎようとしていたのだ。
彼はお世話になった教授の手伝いをすると、卒業後は遠くの地方へと行った。
会う回数が更に減り、明日は私の大学卒業式。
来てくれる、はずだった。
「本当にごめんな。仕事多くて、明日行けそうにない」
電話越しに聞こえる申し訳なさそうな大和さんの声。
『お仕事頑張ってください』
我が儘を言ってはいけない。
彼を困らせたくない。
無理して、倒れて、欲しくない。
『……私は、大丈夫ですよ!』
明るい声色で
大和さんに伝える。
自分に言い聞かせる。
切れた後のケータイから響くツーツーという音がやけに虚しく耳に残った。
「……あのじじぃか!」
目の前でそう叫んだ小さな男の子。
今年小学生になる、私の弟の秀樹【ひでき】。
すごく可愛い。
秀樹は大和さんが嫌いらしく、じじぃと呼んで嫌な顔を見せてくる。
『じじぃじゃなくてお兄さんでしょー』
「妃代が大和くんにとられていやなんでしょう、秀樹は」
「ちげーよバーカ!」
少々……生意気である。
お母さんがニコリと笑って明日大和くんに久々に会えるのねと嬉しそうだ。
私の両親と大和さんは結構顔を合わせているのだが、母と父は大層彼を気に入っている様子。
……周りへの対応いいしね、大和さん。
『明日、仕事忙しくて来れないんだって』
そうなの、とお母さんが残念そうな表情を見せる。
仕方ない、彼はもう立派な社会人なのだ。
私を見て秀樹がむっすりとする。
「じじぃ嫌いだ!」
『なんなの突然』
「妃代を悲しませた大和くんが嫌いだって」
お母さんの言葉を否定する顔が赤い少年の頭をゆっくりと撫でた。
広いホテルで行われた卒業式。
卒業証書を授与されて、話を淡々と聞き流した。
淡い綺麗な色の袴に身を包んでいる私。
……袴はレンタルだけどね!
卒業式が終わって、友達と交わし合う「卒業おめでとう、卒業してからも仲良くしてね」
……みんな綺麗だなぁ、格好いいなぁ。
大学が偶然にも同じで再会を果たしたまややんとホテルの出口へ向かう。
出口あたりに両親と秀樹がいるはずだ。
出口に到着すると、何故だか人だかりが出来ていた。
きゃあきゃあと飛ぶ黄色い声。
あの人見たことある、格好いい。
そんな声が聞こえてくる。
有名人でも来ているのかな?
「……なんかすごいね」
まややんが苦笑しながらもケータイを取り出す。
おい、写メとろうとしてるでしょあなた。
まややんのイケメンセンサー反応してる。
人だかりの中心にいた人物の姿が見え、視線が合う。
その人は目を細めて微笑んだ。
「妃代」
愛おしい声で、私を呼ぶ。
『大和、さん?』
……有名人じゃなくて知り合いじゃないですかー。
確かに彼は、学者として地方番組だがテレビに出たことがあった。
心理学者として働き始めて1年足らず、にもかかわらず結構注目されているらしい。
見た目が良いため、街角スナップとかで、写真を撮られてたこともあった。
載った雑誌は今でも部屋に残っている。
それで「見たことある」という人がいるのはすごいな、よく覚えているな。
「なぁんだ、妃代の彼氏さんだー」
と、いいつつ写メを撮るまややん。
『……仕事は?』
仕事あるから来れないと言ったじゃないか。
他学部女子の品定めするような視線、友達の驚いた視線、いろんな視線を気にせずに彼に近付く。
「急いで仕事片付けて、飛ばして来た」
なんて、してやったり顔で笑う。
「卒業おめでとう」
『ありがとうございます』
スーツを身に纏った大和さん。
髪の毛は癖っ毛をワックスで抑えているのか。
いつもより大人っぽく見える。
「お前の両親、俺の車に乗ってもらってるから」
私に会う前に会ったらしい。
手を引かれ、大和さんの車へと向かう。
まややんに別れを告げて、彼の後ろについて歩き出した。
車の後部座席に、3人が乗っている。
「お待たせしました」
礼儀正しく微笑んだ大和さんに対して両親も笑って返す。
乗れと促されて助手席に乗る。
大和さんの車久々だー。
共に大学生の頃は会うときに乗ってたなぁ。
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