チョコトリュフ





「んじゃー、気をつけて帰れよー」




先生の言葉にみんなが立ち上がり帰り支度をする。


「桃瀬っ」




帰り支度をしているとにこやかに複数のクラスメートが話しかけてくる。

……両手を差し出して。




『……何?』


「今日の日付を考えればわかるだろー」




2月14日。

いえす、バレンタインデー。


女子は私ひとり。





つまりこれは、チョコレートの催促。


鞄に手を突っ込んで、大袋入りのひと口チョコレートを出した。




『くれてやるっ!』



たくさんのひと口チョコレートを教室内にバラまいた。

……包まれてるタイプだから汚くない汚くない!



チョコレートを拾うクラスメートを横目に教室を出た。


ぴたりと止まって一言。





『あ、お返しは倍返し以上でよろしくねっ』



語尾にハートが飛ぶ勢いでそういって教室を出た。

嫌そうな顔されたけど気にしない。



廊下を走って、別の階へと向かう。



鞄に入っている綺麗にラッピングされたそれを手にして、彼の教室へと足を運んだ。






「白鳥?今日は来てないよ」


『えっ』





……来てないの?


あぁもう、3年生は自由登校だからわかりにくい。



会長のクラスメートさんに「ありがとうございます」とお礼を言って体の向きを変えた。


寮に帰ろう。



学校を出てすぐそばの寮へとゆったり向かう。



自分の部屋を通り過ぎて、彼の部屋の前へ。

軽く数回ノックすると中から動く音が聞こえた。



「はいはーい」



面倒くさそうな声色で返事をしながらドアを開く会長と目があった。



細身のパンツとゆるいVネックがやたらと似合っている。


やはり細いな……くそう、羨ましい。

私も細くなりたい。




「あら妃代ちゃんどうしたのかしら?」

『いつのまにオネエデビューしたんですか』

「今」




まじか。


会長オネエになったのか。



受験勉強していたのか、ランナーズハイ状態。


疲れ切ったらテンションおかしくなる人多いよね。




私を見てひゃっひゃと楽しそうに突然笑い出す会長。

これはもう救いようがない。末期だ。



残念ながらもう手遅れです……手は尽くしたのですが……!
何もしてないけど。



「おいおいー、じょーおだんなんだからーそんな引いた目でーみないでくださーい」



ゆるゆるーっと言葉の端々を伸ばし、楽しそうにゆらゆら揺れている目の前の人はもう寝た方がいいと思う。




会長、頭いいんだからそこまで頑張らなくても大丈夫じゃないか。


本当、無理するのがお好きで。




……だからほっとけないんだよ。




『ちゃんと寝てますか?』

「んー寝てるよ」

『休憩は?取ってます?』

「うんうん、取ってます取ってます」

『ご飯食べましたか?』

「食べたよー母ちゃんかよお前はよー」




会長落ちついて、キャラが定まってない。



オネエから思春期少年に進化した。


ん?退化?




「で、結局何の用だ?」


あ、普段モードに戻った。



『……お疲れの会長にコーヒーでも入れてあげようかと思いまして』

「んー……どうせならココア入れてくれ。甘いもんが欲しい」



お邪魔しますと1つ言葉を吐き出して、部屋に上がる。



目的が違う!
……いつ渡せるかな。



チョコレートの入っている鞄に目をやって、鞄を置いた。



会長の部屋、ココアあるんだ。



牛乳を鍋に入れて温める。


温まった牛乳にココアパウダーを適当に入れて、溶かして、はい完成!




『会長ーできましたよー』

「おう、ありがとな」



いつの間にか机と向き合っている会長にココアを差し出す。



『調子はどうですか』


「本能寺の変を本能寺の恋って書くぐらいには疲れてる」


『たしかに漢字は似てますけど!』

「答え合わせしてるときに自分で笑ったわー」



勢いで問題解いていくと漢字とか間違えることあるよねー。



で、1人で笑ったりしちゃう。

私もよくやる。



「最近寒いからあったかいもん体にしみるわー」



ふにゃりと表情を崩してココアを口にする。


嬉しいのか鼻歌をふんふんと歌っている。



おそらく流行曲を歌っているんだろうけど……所々音程がはずれていてなんか可愛い。



甘いものが口にできて嬉しいのかな?




「妃代からのチョコレートいただき」




一瞬の動揺。

すぐにそのチョコレートがココアのことを指しているのだと理解した。


……ばれたのかと思った。


会長は視線をココアに向けてにこにこしていた。




『……バレンタインですか?』
「そうそう」


会長の瞳が細められる。



『ココアはチョコレートじゃない……というか材料全部会長のですし、私からってことにはならないと思います』

「いいだろ別にーこのくらいなら。気持ち気持ち」


今が、1番良いタイミングだろうか?



『チョコレート、欲しいですか?』



恐る恐る言葉にする。

なに、くれるの。そう首を傾げる会長。




鞄からチョコレートを出して手渡す。


「あぁ、ありがとな」

会長はどうしてか苦笑する。


くるりと椅子を回転させて机に向かった会長。




ねぇ、それじゃあ表情がよく見えないよ。





「あー、悪いがお返しは期待するなよ?というか……俺はもうホワイトデーにはいないからな」



ホワイトデーは3月14日。
高校の卒業式は3月1日。


卒業生が寮から出るのは、卒業式から2週間以内。



ここで彼を見送ってしまったら、私は。

私は……下手したらもう2度と会うことができない。





『嫌です、ちゃんとお返しください』

「おい……お返し目当てかよ」
 



『これからずっとバレンタインにはチョコレート、あげますから……ホワイトデーにはずっと、お返し下さい』

「……は?」



あぁ、見えた、表情。

会長が椅子を再び回転させて私を見た。



理解できていないような、驚いた表情。



「……義理を?」

探るような言葉がゆっくりと吐き出された。


『義理の方がいいですか?』
「良くない」



会長が椅子から降りて床に座っている私に視線を合わせる。

思わず視線を逸らした。


伝わってるよね。
遠まわしに言っているけど、はっきりと言葉にはしていないけれど。


まっすぐ伝えたわけでもないのになんだか無性に恥ずかしくて、会長の顔が見ることができなかった。



「なぁ、妃代。ちゃんと言わなきゃわからない」

『わかってるじゃないですか』

「あとな、俺はもう会長じゃない」

『癖になったんです』

「名前で呼べ」

『白鳥先輩』

「このやろう、桃瀬って呼ぶぞ」




くだらないやりとりを、繰り返す。

目の前の彼が、笑う。


『チョコレート食べてくださいよ。美味しくできましたよ、たぶん』




誤魔化すように出した言葉。


「あとでな。まずはこっちからだ」



譲らない目の前の人。



「妃代」



優しい声で私の名前を呼ぶ。

声に出さずに、口の動きで愛の言葉を囁く。




『言ってくれないんですね』

「お前が言えば言うよ」




今更名前を呼ぶのが恥ずかしくて

『大和、さん』

さん付けで彼の名前を口にする。
 

「なぁに、妃代」



優しく目の前のその人は笑って。




『好き、です』

「俺はね、愛してるよ」



2人の唇が重なる。



しばらくして、ゆっくりと唇が離れる。

力強く抱きしめてきた大和さん。



「そばに居られないのが残念だな」


寂しそうな声で呟いた。


大和さんは大学に受かれば、ここから近いとはいえない場所へ行ってしまう。


あまり、会えなくなってしまう。




でも大丈夫。


『1年待っててください』


勉強嫌いだけど、頑張るから。


『私も同じ大学行きます』




その大学はたくさんの学部があるから。

やりたいことを、見つけたい。




「大丈夫か、学力が」

『頑張るっていったら頑張るんです!!』


大和さんみたいに頭は良くない、というかむしろ私は頭悪いけど……!

成す気になれば成せる!



「待ってる」




まだ大学に受かってないけど、大和さんなら心配ないだろう。



幸せな気分にひたっていると大和さんの笑顔がふにゃりとしたものから妖しいものへと変わっていた。



うわぁ、なんだかいやな予感。
的中したのかどうか、視界が反転。


押し倒された形になる。





「妃代、俺疲れた」

『寝たらどうですか』

「癒してくれよ」



有無を言わせずに触れる唇。

深く激しくなっていく口付けに抵抗せずに流される。




わざとらしくリップ音を立てて唇が離れた。

息を整えていると、上から優しい声が聞こえる。





「ありがとな。さぁて、勉強再開するか」

『え?』

「ん?」


……あれ?


戸惑っていると大和さんがくすりと笑う。




「やだ、何を想像してたのかしらこの子」

『大和さんの馬鹿、オネエ』

「オネエじゃない」




起き上がって、離れた大和さん。


笑いながら私の頭をぐしゃりと撫でる。






「しないよ……まだ、な」






妖しい笑みを浮かべる目の前の人。
 

この人にはこれからも勝てそうにないです。





『好きです馬鹿』

「俺も好きだよお馬鹿ちゃん」
















俺が「好きだよ」といえば、仕返しだといわんばかりに「愛してます」と返す。


馬鹿みたいに2人で笑って。

それがこれからも当たり前のように続くといい。



君にどっぷりと溺れている俺は

どうやら君に、これからも勝てそうにない。





*大和END*




 

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