ハニージンジャー2
あぁ、そうだ。卓哉先輩のお弁当。
鞄からお弁当箱を取り出して布団の中の会長に声をかける。
『会長ー、卓哉先輩からお弁当預かって来ましたよー』
あ、薬部屋から持ってこなきゃ。
この部屋薬なんてなさそうだし。
風邪薬でいいよね?
「食欲ない……」
『薬飲めないので食べてください』
布団から顔をひょっこりだした会長が赤い顔を歪ませる。
お弁当箱を開くとそこには消化のしやすいものがたくさん。
……卓哉ママン。
美味しそうだなぁ卓哉先輩特製弁当。
お弁当を会長に向けると口をぎゅっと力いっぱい塞いで拒否を示す。
力を入れすぎて目もぎゅっと閉じている。
なんか会長今日幼いね。
風邪のせい?
それともそれが素ですか?
『美味しい美味しい卓哉先輩のご飯ですよー』
いや、卓哉先輩のご飯食べたことないから知らないけど。
見るからに美味しそうな感じ、そして体に優しそう。
会長がもぞもぞと布団からでてくる。
上半身を頑張って起こして、壁にもたれかかった。
よしよし、えらいえらい。
口をあーんと開けてストップ。
……whats?
これは、つまり
「はい、あーん(はぁと)」
をやれと言うことなのでしょうか?
私が黙っていると会長が不思議そうに私を見て首を傾げる。
それが当たり前であるように。
なぁにこの人、甘やかされて育ったの?
風邪の時に「はい、あーん」は当たり前なの?
ちょっと卓哉ママン出てきなさい。
甘やかしたのはあなたですか。
卓哉先輩は会長の母じゃないよね!知ってる!
ただ、無言で。
涙目(風邪で)+赤い顔(風邪で)+上目づかい(位置的に)なんですけど。
これは反則だと思います。
所謂「はい、あーん」をして会長の口に入れてやる。
あ、必死に口動かしてる、もぐもぐしてる。
『美味しいですか?』
私の言葉に首を数回縦に振った。
すべてとは言わないものの、できるだけお弁当を食べた会長。
『じゃあ、私1回部屋戻りますね』
「やだ」
え。
やだとは。
会長を見ると首を横に振っている。
帰れといったりいろといったり。
どっちなの。
『薬取りに行くだけですよ』
「大丈夫」
薬飲むからってお弁当食べたんじゃないの?
次は薬イヤイヤアピールですか?
服の裾を必死に掴んで会長は必死に首を横に振っている。
私はどうしたらいいの。
甘やかすべきなの?
甘やかさないで薬を口にねじ込むべきなの?
「薬、ある」
机を指差してそう呟いた。
……会長どんどん喋るの辛くなってきてない?
机のどこにあるのか。
机から会長に視線をずらすと視線が交わった。
「……そばにいて」
小さく紡ぎ出されたその言葉は、私の耳を微かに揺らした。
伏せられた瞳。
普段はかけている眼鏡をかけていない。
それらが会長の睫毛の長さを強調していた。
『ここにいますよ』
そういって、視線を合わせる。
会長は目を細めて安心した表情を浮かべた。
薬を飲むための水を汲みに水道の方へ。
近くにあったコップに水を汲んで会長の近くへと戻った。
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