ハニージンジャー1




「もうすぐバレンタインデーだねぇ」


私の方をちらりとわざとらしく見る御門くん。



「もらうあてがない奴は悲しいな」

「本当な」



陽くんと蓮の冷たいセリフに御門くんがわざとらしく反応した。

私は無関係だと言わんばかりに雑誌に目を向ける。



「2人ともまとめてふられろ!!蓮ちゃん選ばれなければいいさ!」



今日もバカな方々は元気にバカです。
主に御門くんが。





うーん、バレンタインデーか。

……みんなチョコレート大丈夫かな?


お礼の意味も込めて、作ろうかな。




雑誌のバレンタイン特集!だとかが目に入ってどこもかしこもバレンタイン一色かと呆れながら目を通す。


あまり好きじゃないけど、今年は便乗してみようかな。





「桃瀬ちゃん」




ドアの方から聞こえてきた声に反応する。

あ、卓哉先輩だ。




お弁当片手に私に手を振った。



『こんにちは』


どうしたんですか?と問いかけると卓哉先輩は「メール来た?」と私に言った。



……メール?誰から?


ケータイを開くと数着の着メール履歴。


届いていたのはよく利用するお店からのメルマガばかりだった。




『メルマガなら届いてますが』
「あー、えっと、大和から」


会長から?
いや、会長はもう御門くんに引き継いだのか。


なんて呼ぼうか……白鳥先輩? 


慣れない。



『いえ、来てないです』


「うーん、そっか」

『なんかあったんですか?』





卓哉先輩はためらいがちに口を開いた。






「大和、寝込んでるみたいなんだよね」

『え?』

「いや、そう来たわけじゃないんだけど、たぶん……ほら」





そう言って卓哉先輩が見せてくれたのは誤字だらけの会長からのメール。


というか誤字ってレベルじゃない。

何打ってるのかわからない。




3年生ってもう自由登校だからいなくても不自然じゃないんだよね。

でもこれは確かにやばそうだ。



卓哉先輩はこれの意味を理解できたのだろうか?



私の考えていることがわかったのか、卓哉先輩が言葉を発する。



「たぶん今日先生に面接練習付き合ってもらうって言ってたから、行けないこと謝っといて類だと思うけど……メール返しても返ってこないし」



苦笑して卓哉先輩がケータイをポケットにしまった。

それで、私に何の用だろう?



メールの有無だけではなさそうだ。

卓哉先輩の優しい顔を見るとにこりと笑顔が返された。





「大和にこれ届けてほしいな」



お弁当を掲げて、私に渡す。

え、お弁当?



……確かに、ただでさえまともに食事しない会長が風邪の時にまともなものを取るとは思えないけど。


あの人たまに何か食べてるとこロビーで見るけど……ジャンクフードかコンビニ弁当しか食べてるとこみたことない。




「今日2年生もう授業で終わりだよね?俺が行ってもいいんだけど……」



これから先生と大学のことで話さなければならない、と困ったような顔を見せた。



推薦で合格してても先生と話すことあるんだ。
奨学金のこととか?



『……わかりました』



まぁ、雑誌読んでただけだし。

隣の部屋だし、ちょろっと行って帰ろう。



お弁当を受け取って私は笑う。

「お願いします」



そういって卓哉先輩は笑って走っていった。



もう少しダラダラして帰るつもりだったけど、帰るか。




『帰るね、バイバイ』

「蓮、嫁が白鳥先輩に取られるぞ」
『嫁じゃない』


というか話聞いてたのね陽くん。


「行ってほしくはねぇけど病人ほっとくのもな……あ、俺そろそろバイト」

「女の子よりバイト優先!?」

「誰かさんのせいで前当日に休み貰うっつう最低なことしちまったからな、当分休めねぇんだよな」
「すみませんでした」










お弁当片手に会長の部屋の前に立つ。

ノックをしても返答は一切ない。
……寮母さんに鍵借りてくるか。



開いてれば楽なんだけどなー、と冗談混じりにドアノブに手をかけた。

……開いてた。




え、会長不用心。

ドアを開けるとベッド付近の床で倒れている会長が目に入る。



……ちょっ。

『会長!?大丈夫ですか!?』




何故彼はベッドから落ちているのか。
学校に行こうとしたとか言いそう。



「……ひ、よ?」


私の声に反応して目を開く会長。



近付いてみると顔が赤いことがよくわかった。
結構重症じゃないか、熱いし。


会長を抱えようとするも男性、私の力じゃきつい。



何とか自力で立ち上がってもらい、私は会長を支えてベッドへと誘導した。


……男性、って言っても軽かった気がする。
いや、男性の重さそこまで知らないけど。



「がっこー、は?」




途切れ途切れの言葉。

それをよく聞き取って会長に返事を返す。




『午前授業ですよ今日は』

「そっか」



息を苦しそうに吐き出し。

咳を数回。



……だいぶ重症じゃないか本当に。
 


冷却シートないだろうし、タオル冷やしてくるか。




『会長、洗面台とタオル借りますね』
「なに」




なに、って。

……あぁ、どうして洗面台とタオル使うんだってことだろうか?




『冷却シートないですよね?だからタオル冷やしてきますね』

「いい」



小さく首を横に振る会長。

力なく開かれた目が真っ直ぐと私を見た。



「大丈夫」


そういって、笑ってみせた。




『大丈夫には見えないです』
「大丈夫だよ……風邪うつるから、帰れ」



そうやっていつも、会長は。

人を頼ることを拒絶する。



あやめさんの時だって、私のために自分を犠牲にして。

いつだって他人を優先して、自分のことを大切にしてあげようとしない。




今回だって会長引き継ぎ作業が長引いたことが祟ったんでしょう?



迷惑をかけることを、怖がっているのだろうか?



会長の言葉を無視して洗面台へ、そして適当にタオルを掴んで濡らした。

それを会長の額にわざと強めに置いてやった。押し付けてやった。


『受験生は大人しく看病されていてください』
「ひ、妃代。痛い痛い!」


グリグリと押し付けていたタオルから手を離す。



『迷惑なんかじゃないですから』



私の言葉に会長は少しだけ目を見開いた。



迷惑だったとしても、大切な人にかけられる迷惑なら、嬉しいものだと思うけど。

だって、頼るくらい信用されてるってことでしょう?



『……もっと、自分を大切にしてください』



会長にはちゃんといるんだから、心配してくれる人が。


黙り込んだ会長。


無理して起き上がろうとしていたらしく、体に力が入っていたみたいだ。
諦めたようでぼすりと小さな音がベッドから響いた。


「ごめんなさいね」だなんてふざけた調子で言う。




布団の中に潜りこみやがった、やろぅ。
反抗期か、反抗期なんですか。




 

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