Arrest2






いやっ、これ変なプレイとかじゃないから。

ある種のバツゲームだから。




左手を掴まれるように繋がれる。




『……何』

「いや、こっちの方が、不自然じゃねぇかなって」




視線を逸らして、少しだけ頬を赤く染めながら蓮がそう呟いた。



……まぁ、手を繋いでた方が手錠見えにくい、かも?






しばらく歩くと見えてきた小さな家。

青峰家のドアを開けると小さな双子ちゃんたちが飛び出してきた。




「「おかえり蓮くーん!」」


「おう……バイト先に休む電話しねぇと。ひよこ、ちょっとついてこい」

『うん』




あ、ひよこさん!なんて2人が笑顔を見せてくる。

あぁ可愛い。抱きしめたいから蓮は左手を離してください。




リビングに入り、蓮が電話を手に取った。



あ、龍馬くんだ。



『龍馬くんこんにちはー』

「ひよこさんこんにちは」



龍馬くんにまでひよこさんって言われたんですけど。
マイネームイズ妃代。



バタバタと2階から足音が聞こえてくる。




「蓮!帰ってきたの−?ちょっとぉーお金貸してくんなーい?」




女の人の、明るい声。


蓮は電話中のため、その人を無視。




「蓮!!無視すんな馬鹿野郎!シメるぞ!」



大きな音を立ててリビングに現れた、背の高い女性。

……この声、前電話に出た人だ。


シメるぞって……蓮の家族って感じするわ。



蓮は「静かにしろ」とでも言うように女性を睨み付けた。





女性が電話している蓮を見て、てへっとでも言うような表情をしてから私に視線を移す。


目がきらりと輝いた。
……楽しそうに。


「あっれ、蓮の彼女?あれか、桃瀬妃代ちゃん!やーん若い!可愛い!この馬鹿にもったいない!」



わー早口!


ぺたぺたと楽しそうに触られる。

抵抗できず、なされるがまま。



「何々?手錠?そういうプレイ?束縛プレイ?この馬鹿そんな趣味あったのお姉ちゃん引くわー超引くわー」



蓮のお姉さんか。
なんていうか、クールビューティー。

綺麗な顔立ちの整ったお姉さん。



蓮が静かに電話を切ってお姉さんにデコピンを食らわせた。



「てめぇうるせぇんだよ俺電話中だろうが黙れ!弟にたかるくれぇなら働けクソ姉貴!」


あら蓮、お口が悪いわよ。

お姉さんはおでこを痛そうに押さえて蓮を睨み付ける。



「私彼氏以外に体汚されたくない……っ」

「なんで体売る仕事前提なんだよ普通に働け普通に」



呆れたように、蓮が呟く。

そんな彼を見てお姉さんは楽しそうに笑う。




お姉さんは私の方を再び見る。



蓮を親指で指さしてニカッと笑った。



「私はこの馬鹿の姉の結衣。20歳大学生でーす!気軽にお姉ちゃんって呼んでね!」


語尾にハートを飛ばす勢いでペラペラと話すお姉さん。



「24歳だろ嘘ついてんじゃねーぞニート」
「おいデリカシーって言葉知ってるかクソ野郎」


……元気だなぁこの姉弟。



「ひよこさんはご飯食べていくんですか?」

『あー……たぶん。ごめんね』

「いえ、大丈夫ですよ!じゃあたくさんつくりますね!」



にこりと可愛く言う龍馬くん。

可愛い。



この手錠が壊せなかったら私はここで1日を過ごすことになるんですか。

可愛い子いっぱいいるから嬉しいけどなんか気まずいでしょうそれは。


お風呂は、トイレは!どうするんだ!!





ご飯を作るといって龍馬くんがキッチンの方であろう場所へ向かっていく。



「さぁて、金属って何で壊れるんだろうな。ひよこ、行くぞ」



何処へ。



……あぁ、手錠を壊すための道具探しか。



青峰家の中をぐるぐるまわって、物を探した。

結果。



「……金槌くれぇか」



あまり物はありませんでしたとさ。


やばい、金槌で壊れる気がしない。





うるさい音がでるだろうからと、外で破壊を実行することに。


……近所迷惑にはならないの?



中々寒いです。


『……手は殴らないでね』

「大丈夫だろ……たぶん」


たぶんとか。やめてよ。

手を滑らせたら大惨事ですからね。




頑張ってチェーンの所を叩くこと数十分。


……壊れることはなく。



結構立派な手錠みたいです、これ。




「……あの軽眼鏡、変なとこで金使ってんじゃねぇぞ」

『御門くん馬鹿だから仕方ないんじゃない……』



あらぁ、もう夕方じゃないですかぁ。

帰れる気がしないね。



「……蓮兄、ご飯できたけど」



龍馬くんが控えめに声をかけてくる。




「とりあえず飯食うか」

『ごちそうになります』



とても申し訳ない。





リビングに行くとすでにみなさん座って待機していました。




いただきますと声が重なって一斉に食べ始める。


メニューは温かいシチュー。


……龍馬くん料理上手だな、すごくおいしい。


私よりも女子力高いんじゃ……
ん?私の女子力が低いだけ?



玄関から大きな音が聞こえる。


「あー腹減った!飯飯ー……」



元気にリビングへ入ってきた男の人。

蓮よりは背は低い。




「薫くんのせきはないよ!」



俊太くんが明るく言い放つ。



……私が座ってるせいで席はもうないのだ。

薫、そう呼ばれた男の人は大げさに驚いて見せた。



「僕が主役のいじめストーリーが展開」
「しねぇよ」



間髪入れず、蓮が冷めた様子でツッコミをいれる。






『すみません』

今すぐ立ちます。立ちますとも。



薫さんが笑って立とうとした私を見た。



「いやいやーいいよーお客さんに立たせるわけにはいかないからね。椅子取ってくるわ」





そういってリビングから姿を消す。



「……妃代ちゃんがいることに対してはナチュラルにスルーしていったなあいつ」




結衣さんがポカンとした様子で呟いた。



椅子を持った薫さんがリビングに姿を現す。




「ていうかその子誰?あっ、俺は青峰薫っていいます、よろしくね?」



今更ですか。
ご丁寧に自己紹介ありがとうございます。



薫さんの方を向いて口を開いた。



『桃瀬妃代っていいます』


「蓮くんのおよめさんだよ!」

「え?」



千絵ちゃんそれ違う。お嫁さんと違う。



「俺が好きな奴」




蓮が左手で器用に食事を済ませながら単調に言葉を吐いた。


「なぁんだ、蓮の彼女」

「ちげぇよ。ただの片想い」



横でそう言われるとなんか恥ずかしいんですけど。



その言葉を聞いて結衣さんがかしゃんとスプーンを落とした。

なにやら、深刻な顔をして。




「彼女でもない子に束縛プレイとかあんたなにしてんの?さすがに引くわ」
「プレイもくそもねぇわ御門のせいでこうなったんだよふざけんな」



この2人口悪いな。

結衣さんと蓮は血の繋がりありそうだね。
絶対ここ本当の姉弟だね。


2人掛かりでの説得になんとか納得してくれました。よかった。

薫さんも椅子に座り、明るい食事風景。


食事が終わって、片付けも手伝って。
さてどうしよう。



風呂は我慢しろだなんて言われたけど、そりゃあね、さすがに入れませんよ。



結っていたお団子をほどくと、髪の毛が重力にしたがって下向きに落ちる。

だいぶのびたなー髪の毛。





蓮はあくまでも平然と、何もないかのようにテレビを見たり、千絵ちゃん俊太くんと戯れていた。

右手はちゃんと配慮してくれている。そこは蓮らしいよなぁ。






「蓮くんねむいーっ」





時間が進み、夜中に近付いて。


千絵ちゃんが目をこすりながらそう叫んだ。

俊太くんも賛同するように目をこすりながら何度もうなずいている。



「あー……そろそろ寝るか」



蓮って双子と一緒に寝てるの?

なんだそれ、可愛い。





 

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