BAD APPLE1






どうして?
落ち着かない。



だって今、私の周りには……




あの3人が、誰もいない。





どうしてか、勝手に。

安心してたんだ、側にいてくれるからって。
守ってくれるんだって。

思ってた。




きっと勝手に自惚れていた。

自分がまるでよくある小説の主人公なんじゃないかって。
自分はここではお姫様のような存在なんじゃないかって。
無償の愛を、もらえるんだって。



そんなことなかった、そんなはずなかったんだ。




だって、あの3人だって1人の人間。
好き嫌いのある、感情のある人間だから。



「婚約者だから」と言って、それだけで好きになってもらえるわけないじゃんか。

私が素っ気無かったら離れていくに決まってるじゃんか。



……そんなことにも気付けなかったのは馬鹿な私。


嫌そうなフリして、無意識に3人を必要としていたのは弱虫な私だ。




『……最低』

「……妃代ちゃんどうしたの?」



席の近い御門くんに私の呟きが聞こえたのだろう。

不思議そうな顔をして私の顔を覗き込んだ。




今の授業は現代文。先生が出張でお休みになって自習の時間という名の休み時間だ。





『ううん、なんでもない』




御門くんの方をちらりと見て首を横に振った。



最低、私が。

思考も性格も何もかもが最低なんだ。




授業が終わる合図のチャイムがなる。

ケータイを覗き込んでも履歴には何もない。





最後の授業も何事もなく終わる。
落ち着きなんてなかったから、何をやったかなんて覚えていない。





“僕にも何か起きるような気がするんですよね”




誰かが仕組んでいるような出来事。
誰が?何のために?



理解できない。
何もかも。

ぐちゃぐちゃで、そう、糸が絡まったような思考回路。




誰かに助けて欲しい。

絡まった糸を解く手がかりが欲しい。






ケータイが揺れる。
マナーモードにしてるから、バイブレーションのみなんだった。


『……もしもし』


「あぁ、妃代先輩。授業終わりましたか?今お時間よろしいですか?」




機械越しに聞こえる、未来くんの声。

相変わらずの、堅苦しい敬語。




『うん、うん。大丈夫』



彼が何のために清風高校に行ったのかは、午後の授業中に落ち着いて考えてみたらすぐに理解できた。




「蓮先輩はあくまでも正当防衛だった、という証明が取れました」




そう、蓮の無実の証明。

……正当防衛にしては少しやりすぎな気もしたが。




淡々と話す未来くんの声が耳に通る。





「蓮先輩に学校に来るよう連絡しておいてくれますか?僕、あの人の番号知らないんで」





そう言って「すぐ戻ります」と優しげな口調で言った彼は電話を切った。





……蓮の番号知らない、気がする。




ケータイの電話帳を開いても蓮の名前はなかった。

あれ……どうして聞き忘れてたんだろう。



教室に誰かまだ残ってるかな?知ってる人いてくれるといいんだけど。



私はそう願って教室へと向かった。










「蓮なら携帯電話、持ってないだろ」


偶然教室にいた陽くんが無表情でそう答えた。

ユニフォームを着ているところからして部活の途中で抜けてきたのだろうか。



……あぁ、そうだった。

番号教えてって言ったら「持ってない」って返されたんだ。




陽くんが何かを紙に書いて私に渡した。




「なんかあるなら家電にかけたら。謹慎中なんだからさすがに家にいるだろ蓮も」



紙には電話番号。青峰家の電話番号らしい。





『ありがとう!』

「じゃあ、俺部活だから。頑張れ」



そういって陽くんは教室を出た。

何に対しての頑張れなのかがわからないけど……ありがとう陽くん。





電話番号をケータイに打ち込んで、相手が出るまでのコール音を聞き続ける。


数コールの後にがちゃりと繋がる音がした。




もしもし?なんて声は聞こえない、無音。

……あれ?繋がってるよね?




『……もしもし?』




控えめに声を発すると息を飲むような音が微かに聞こえる。





『……あのー』




誰だろう。千絵ちゃんか俊太くんだろうか?
龍馬くんだったらきっちりと対応してくれるはずだし。




「龍馬?蓮?」





聞こえてきたのは凛とした透き通る声。
……女の人?




『え?あー……私は、桃瀬妃代と言う者ですが……』




「ちーがーうー!どっちの彼女!?もしかして薫!?」



楽しそうな声が大きく響く。

受話器の向こうから「うるせぇよ」と聞き覚えのある声が聞こえた。
あ、蓮だ……




「ねー蓮!なんか可愛い声の子から電話かかってきたけど、あんたの彼女!?」

「何言ってんの姉貴……もしかして妃代?」




呆れたような声が聞こえてくる。

そうです私です……そのまま代わってくれませんか。




「そー!妃代ちゃんだって!あんたか、あんたの彼女か」

「はいはい早く代われうるさい。ニート働けよ、いい加減働けよ」



お姉さんに冷めた口調で言ったあと「もしもし」と面倒くさそうな声がはっきりと聞こえた。





「ひよこ?なんかあったか?」




そういえばさっきさりげなく妃代って言ったね。




『えーっとね、学校来れる?』

「いや、俺謹慎中だから」

『謹慎取り消しできるみたいで』

「は?今日なったばっかなのにか?」




未来くんの行動を説明するとため息が聞こえる。

借りができたとかなんだとか。




「Thank you。すぐ行くわ」




相変わらず発音の良いこと。


通話が終了する。



さて、私は何をすればいいのかな?
2人を待ってればいいか。

といっても、教室にいるのも暇だ。





……そうだ。

教室から足を踏み出す。


しばらく歩いて、たどり着いたのは生徒会室。




――ちゃんと話がしたい。

そう、思ったから。



 

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