(非)日常






補習最終日。



終わった!なんてみんなで騒いでいると大きな音を立ててドアが開いた。



そこには笑顔な未来くんが立っていた。



……あれ?未来くんも補習組だったの?
意外と馬鹿だったの?

いや、常識はずれだけどね。




「さぁ妃代先輩!約束通りデートしましょうか!」




明るく大声で、そう叫んだ。





『はぁ?』

「臨海学校の前に約束しましたよね?」



あー、そんなこともあったようなーなかったようなー……




『うん、なかった』

「ごまかさないでください」




だってあれ、一方的すぎるでしょ!

水着はもらったよ?もらったけどさ!
ほら、私着てないし?

突然当たり前のように条件を最後に付け足すのは卑怯だし?



私は残り僅かなサマーバケーションをゆっくりじっくり堪能するんだい!!

お前さんに付き合ってあげる余裕なんてないのでーす。




……なぁんて、目の前の横暴お坊ちゃんに通じるはずがないわけで。


「さぁ、行きましょうか」



だなんて言って、私の手を掴む。




蓮ー、蓮くーん、ふーちゃーん。
助けてくださーい。

いや、彼今日バイトでいないんだけどね?
何なんだよ!あの人タイミング悪いよ!!




なされるがままに引っ張られて玄関を出たあとに誘導された場所には大きな車。

おおぅ……高級車ですねー。





……そうだ。



『車には乗らない』

「は?」



いいだろう、デートしてやろう……



黒松未来、お前に……
“普通”というものを叩き込んでやるよ!


覚悟しろ!





『デートといえば歩きでしょ?街行ってーゲームセンター行ったり、ショッピングしたり』


少なくとも高級車ブッブーわぁいすごいなー!なんてのはデートと認めません。


なんか高級店で「ここからここまで全部」とか、高層ビルの最上階で優雅な食事とか。
許しません。庶民なめんな。




「……なんですかそれ」


心底面倒くさそうにしている未来くんを一睨み。




『面倒くさいならしなくてもいいけど?』

まぁ、してやる義理はない、はずだ。
……水着もう配っちゃったけど。



「……まぁ、いいですけど」




高級車に乗っている運転手に帰るように言って未来くんが戻ってきた。

……お坊ちゃんだなぁやっぱり。
専属運転手とか、笑えない。



未来くんが私の手を握ってニコリと笑う。




「さぁて、どこに行きましょうか?」

『そうだねー、まずはアイスでも食べに行こうよ』



うーん。
なんとなく、会長や蓮よりも未来くんとの方が話しやすいんだよな。

なんでだろう?
……って思ってた謎が解けたよ。




『未来くんとは視線が合うから会話しやすい』
「それは僕に対して喧嘩を売っていると判断してもいいですか?」



身長私と同じくらいだよね?
見上げる必要ないって楽。




「僕が小さいんじゃなくて妃代先輩が大きいんじゃないですか?」


『私160だけど?』



まぁ、女子としては平均ちょっと上くらいなんだろうけど……それでもそこまで大きくないよね?


冷たい目で見てきた未来くんが俯いてぼそりと呟く。




「……まだ伸びますから。そのうち蓮先輩も越しますからね!!」


『えー?それは無理だと思うよ』



蓮見た感じ190くらいあるよ。

たぶんアメリカとか行っても大きいほうだと思う。


ハーフだからか。純日本人じゃないからか?



まぁ、会長くらいの身長にならなれると思うよ、頑張れば。
ガンバレ。うんガンバレ。



ていうか身長気にしてたんだ。
可愛いところあるじゃん。



「……さぁ行きましょう!」



嫌になったらしく、私の手を引いて校門を抜けた。





しばらく歩けば賑わう街の中。



ちょっと有名なアイスの店にたどり着く。




きゃあきゃあと賑わうアイスショップに未来くんが……引いた。

引いたというか、初めての光景で驚いてるというか戸惑っているというか。
本当に来たことないんだねこういうところ。




『メニューここにあるから好きなの選んでいいんだよ』

「……」



声を出せ。


戸惑っているなんだか可愛い未来くんをちょっと放置して、まず自分のを頼む。



『オレンジシャーベットと……うーんと、ストロベリーチーズケーキで!』



なんかおいしそうだからダブルを頼んでみた!


店員さんがニコリと笑って対応してくれる。




「お連れの方はどうしますか?」


なんて、未来くんに笑って店員さんがそう言った。





「え、あの……」



店員さん不思議そうにしてる。困ってるから……

私を見て助け舟を求める未来くんをニヤニヤしながら口を開かずに見る。


いや、ほら。
メニューから頼めばいいだけだし?



口をもごもごさせて店員さんをちらりと見た彼。



「あの……ハッピーストロベリーと……ま、マシュマロショコラで」


「かしこまりましたー」


店員さんは相変わらずニコリと笑う。




『意外と可愛いチョイス』


くすくすと笑って見せれば、未来くんは周りの目を気にしたようにキョロキョロしつつ私を睨みつける。


「ひどいじゃないですか……!」

『最初にお手本見せてあげたでしょー?』

「メニュー見ててそれどころじゃなかったんです……!」



どこにアイスショップの注文するのにメニューだけで精一杯な人がいようか。
目の前の彼以外いないんじゃないか。




美味しそうにほおばる未来くん。


和むわぁ……
可愛いわぁ……






アイスを食べ終えて近くのアウトレットへ。


服を選んで「これどう?」って言ってみれば「いいんじゃないですか」と拗ねたように返された。


ぬぅ……まだ怒ってらっしゃる。
器の小さい男よのぅ……




何着か気に入った服を購入して、アウトレットを出た。




未来くんの手を引いて、ゲームセンターに入る。





『あ、あの人形可愛い!』

「買いましょうか?」

『あれね、買うんじゃなくて取るの……』

「取る?」



お坊ちゃんも世間様に出ればただの世間知らずの子供さんか……



まぁ、買うっていえば買うなんだけど……お金払うし。




『お金をここに入れて、ボタンでこれを動かして人形をこの穴に落とすの』



UFOキャッチャーの前で身振り手振りをつけて教える。


ふぅん、と興味なさそうな反応をして未来くんがお金を取り出した。




「こういうことですね」




そういって私が可愛いといった人形をあっさりと穴へ落とす。一発で。



「はい、どうぞ。これですよね?」

『……初めてだよね?』

「えぇ」




何者……!

UFOキャッチャーの天才か……!?



腕の中に収まった少し大きめの人形を抱きしめる。
わぁい、モフモフ。


『ありがとう』




私の言葉で未来くんが優しく微笑んだ。





『そうだ、プリクラ撮ろうか!』

せっかく遊びに来たし、記念記念!


「……プリクラ、ですか?」



あれ?知ってる感じだ。



てっきり「わかんないですなんですかそれ」っていうかと……なんか馬鹿にしてる感じだけど。




『あれ?嫌い?』



たまにいるよね、写真とかプリクラ嫌いっていう人。


「いえ……撮ったことはないので」

撮ったことはなかったか!
全部が初めてか!




『よし!じゃあ撮ろう!』



未来くんを引っ張ってプリクラコーナーへ入る。




「あのっ!カップルか女子同士限定って……」


小声でそう私に伝えた未来くん。



『男女ならいーの!』



なんで男子同士ダメなんだろうねぇ……これって。

よくわかんないけど。



プリクラの撮影場所へ入ってお金を入れた。

明るさを選んでね!とか背景を選んでね!という言葉に従い画面を触っていく。




『ていうか、カップルですよーくらい言うかと思った。』



いつも言ってなかった?
妃代先輩は僕が好きなんですよ?とかさぁ。



背景を選びながらちらりと未来くんを見ると渋い顔をした未来くんが私を見ていた。




「……大和会長といつも一緒にいますし、蓮先輩といるととても楽しそうにしているので」


え?私が?




よーく考えたら、会長は寮部屋隣だし蓮はクラス同じだし。
未来くんより接点あるんだよね。




未来くん、きっとそういうのって。


『ヤキモチ』


っていう感情なんじゃないですか?



「ちっ、がいます……!」



詰まった。言葉詰まったよこの子。


顔を赤くして睨んでくる未来くんがなんだか可愛くて思わず笑った。




『あはは、みんな同じくらい好きだよ』




そういえば、未来くんは驚いたように私を見た。


え?なになに、私変なこと言った?

あ、もちろん恋愛感情としての好きじゃないからね!



「妃代先輩……変わりました、よね」

『え?』




機械のシャッター音が鳴る。

あ、やばい。
撮影開始してたよ。




「向き合ってくれるように、なりました」



なんていって、笑った少年。





私は、変われたのかな。

変われていると、いいな。





らくがきをあまりしなかったプリクラを片手にゲームセンターを出た。



「あれっ!ももせんと未来!」




聞こえてきたのは最近聞いたような明るい声。

てかももせんってなに?あだ名?
2度目ましてでもうあだ名?



生徒会書記の男の子。




『雪村くん』

「雪村」



あれ?知り合い?



「デートしてるの!?ももせんって結局誰が好きなの!?」


さぁ、誰でしょう?
答えは誰も好きじゃありませんでした。


なんて1人心の中で呟いた。



「そんなの、僕に決まってるじゃないですか」




あ、復活しちゃった自信満々未来くん。


話そらしていい?
いいよね?勝手に話進めないでくれる?




『2人って知り合いなの?』



「未来とは中学から同じなんだよ!」

「なんかやたらとひっついてくるんですよねぇ、この人」




中学から同じかぁ……仲いいのかな?


未来くんってお坊ちゃん学校に通ってるわけじゃないんだね。
社会勉強ーとかなのかな?




「そっかぁーももせんと未来が両想いなのかぁー。かいちょーに知らせてあげなきゃ!」

『とりあえず違うから。誰も好きじゃないから』



この子止めなきゃ後で面倒事に巻き込まれる気がする。




雪村くんは頭の上にクエスチョンマークを浮かべているんだろうなって感じで首を傾けた。



「……とりあえずっ!俺はももせんを応援してるぞっ!」




ニカッと可愛い笑顔を向けてきた目の前の男の子はとても可愛かった。

私って年下好きなんじゃない?
千絵ちゃんとか俊太くんとか。

……もちろんそこと同じ扱いだよ?




じゃあね!と元気に手をふって雪村くんは走っていった。




『暗くなってきたし私たちも帰ることにしよっか。』





しばらく歩いて着いた先は寮。

未来くんには学校の前にお迎えが来ているらしい。



『じゃあね』といって寮の中に入ろうとすれば未来くんが私の制服を掴んで小さく声を出した。




「ありがとうございました……楽しかったです」

『うん、私も楽しかった』




私の言葉に未来くんが安心したように笑う。



「大好きですよ、妃代先輩」


すぐにいつもの堂々とした笑顔に戻って、そう言って。

本気かどうかもわからない「好き」という言葉を私に放り投げた。



「妃代先輩が僕に好きっていう日を楽しみに待ってますよ」




そう言って、学校の方へ歩いていく。






『そうだね、来るといいね』



未来くんかどうか。
3人かどうかわからないけれど。


私が誰かを愛せて、誰かに「好き」って心から言える日が来ればいいなって、思った。


 

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