あの日私は、今の私は5




――懐かしい響きと、聞き続けてきた声。


息を荒らげて、必死に探してくれていたんだって、すぐにわかった。



「どうした!?苦しいのか!?」

『れ、ん』

「泣くな、お願いだから……泣くな」




涙でぐしゃぐしゃになった顔を優しく拭う蓮。


「……彼氏?」



基が少し困惑気味に言ったのがわかった。
蓮、でかくて……初めて会ったら怖いよね、ぱっとみ不良だから。



「……んだよてめぇ」



そしてこの声、怒り気味な声。
とっても怖いです。




「……妃代ちゃん、今男子校に入ってたくさんの男の子と遊んでるのよね?」




あぁ、そっか。
あやめさんからしたら、朝日学園たった1人の女を見逃すわけないか。

男子校に女子1人って、異常だもんね。


私は気付いてなかったけど、彼女は気付いてたんだ。






「へぇ、じゃあ、俺と別れて正解だったってわけだ!」

なんて、奴が明るく笑ってみせるから。

無性に腹が立って、悔しくて、涙が出てきた。






「……OK.I understood it.」





英語で、突然蓮がそう言ったから。

よく、わかんない。
……英語苦手なんだってば。




「Should I hit you?」




綺麗にしゃべるもんだから、まず何を言ってるかすらわかんなくて。


「は?」


相手も聞き取れてないし。




「だから、てめぇをぶっつぶせばいいって話だよなぁ?っつってんだ……よっ!」


基の胸ぐらを掴んだと思えば間髪いれず思い切り相手の頬を殴った。


すごく、鈍い音がした。

やっぱり、強いんだ、蓮。



「てめぇなんだな?ひめの笑顔、奪った奴」

「なっ、んだよお前……っ!」

「人の女に手ェだした挙句に泣かせてんじゃねぇーよ!」




もう一度、手を振り上げて。

ダメだよ、もう。


殴っちゃダメだって。



『蓮、やめて、お願い』



怖いよ。

優しいのに、なのに、私のせいで。

そうやって人を傷つけないで。



『私は大丈夫、だから』


なにもされてないから。
大丈夫だから。


「……ひよこ」




大丈夫だよ、だから……もう傷つけないで。

その優しい手を、傷つけないで。



「……はやく、消えろ」


怒りを押し殺したような蓮のその言葉に、基とあやめさんが逃げていく。



避ける人もいれば、無関心に無視する人もいる。

そんな中で、私はゆっくりと立ち上がる。








「……俺さ、なんかやらかした気がするんだけど」

『……』



気まずそうな顔で彼が私を見る。

人を殴ったとか、そういうことじゃなくて。




隠そうとしてたことを言ってしまった。そんな類の“やらかした”。




『……“ふーちゃん”?』




私の言葉を聞いて、目を逸らす。

彼は言った“ひめ”って。



最初は言い間違いか聞き間違いだって思った。
名前が妃代だし。


だけど、もう1度言ったから。確かにハッキリと。



あの、私に理解できない言語は英語だったんだ。



『いつから、私のこと気付いてたの?』




あの時の子だって。

私は気付かなかったから、気付けなかったから。




「……最初から」



わからないよ、どうして隠していたの?


あの子は女の子なんかじゃなかったんだ。

目の前にいるこの人が、“ふーちゃん”。




……でも、一切「ふ」って字入ってないよね?蓮……

どういうこと?このあだ名、どうやってつけたんだっけ?



私は顔に出やすいから、すぐ何で悩んでいたのかわかったのかな?

蓮は苦笑したあとに、口を開いた。




「改めて自己紹介するけど……日本名は青峰蓮。アメリカ人と日本人のハーフで、アメリカ生まれのアメリカ育ち」


ハーフ!?

帰国子女じゃなくて、アメリカ育ちなんだ……



蓮の瞳はよく見れば青かった。

綺麗な深い青の瞳と目が合う。




「で、本来の名前っつうか……アメリカではレン・フリージア。ふーちゃんはこっからだな」



あぁ、なるほど。


小さい頃、日本に遊びに来てた頃に私たちは出会ったんだ。

アメリカ育ちだから、蓮はまだ日本語を喋れなくて、会話ができなかった。



突然アメリカに帰ることになったから、別れのあいさつもできなかった。




私は納得して蓮を見た。




「……“ふーちゃん”が女じゃなくて、残念だったな」


最初から間違えられてるってなんとなく察してたけど、と蓮が呟く。



それを、気にして私に言わなかったの?

言えなかったの?




『ううん、ごめんね』


私が言い出しづらくしてたんだね。



でも、会えてよかった。

ふーちゃんに、会えて本当に嬉しいんだよ?
ずっと、会いたかったから。




『蓮がふーちゃんでよかった』



こんなに優しくて、いい人が幼馴染で良かった。




私の言葉に蓮が笑う。



「……ようやく、笑った。昔みたいに、笑ってくれた」




え?

笑ってたつもりだけどなぁ、いつも。




「……俺、あの時からずっとお前が好きだった」



突然の告白に体が固まる。

……いきなり何!?



「ずっと会いたいって、そばにいたいって思ってた……だから、会えて本当に嬉しかった」



手首を掴まれる。

あの、そのー、近いんですけど?



「俺が守ってやるから……だからそばにいてくれ」





小さく、顔を赤くしながらそういうから。

なんだか彼がおかしくて。



笑う。



そんな私を見て蓮がムッとした表情を見せた。



「……なぁ、キス……していいか?」

『はっ?』



突然の言葉に思わず顔を赤くした。

蓮はしてやったり顔。



……いやいやいや、「してやったり!」じゃないからね?
君も顔赤くなってるからね?




「婚約者“候補”の中で俺だけしてないだろ、うん」

なんか自己解決してるこの人どうしよう。



『関係ないよ』

全部不意打ちですからね、私の意思ないからね。



「妃代」




そんな風に、突然呼ぶから。

思わず、反応してしまって、



その隙に軽いキスをされる。





大きな花火が、大きな音を立てて上がり、私たちを照らした。






……私ってどんだけ隙だらけ?

もう少し警戒しろよ!!




“ひよこ”“ひめ”って呼ぶくせに、突然名前なんて呼ぶから、びっくりしたんだもん。




顔が離れて、目を思い切りそらされる。


「……戻るか」



手を繋がれ、引っ張られてみんなの待つ方であろう方向に歩き始めた。











「おっ、蓮ちゃん妃代ちゃーん」

「なんでお前らも一緒にいるんだよ……」


龍馬くんたちがいる場所についてみれば、クラスメートがたくさんいた。えぇ、ほとんど全員。





「結局一緒に来たの?」

「ひよこがなー、友達とこれなくなったっつったからよー」


そんな理由初めて聞いたわ。

来るつもりなかったんだって、言うの面倒くさいから言わないけど。




「花火大会終わったらみんなで公園で花火すんだけど来いよって話してたとこ、弟くんに」


「しゅん行くぞ!」
「ちーも!!」


うわぁ、双子ちゃん行く気満々。




花火大会が終わって近くの公園に移動。

大量の花火を買ってきてみんなで花火をした。



「二刀流!」とかいって花火振り回してる御門くん、どうか燃えるのは自分だけにしてください。
火種が飛んできて燃え移りそうです。




夏休みの青春!って感じだね。




近所のおばさんに花火やってるところを目撃されて怒られたのはいい思い出です……うん。


 

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