あの日私は、今の私は2
うん……でも、
『パス』
「あー……俺もパスだわ」
「なんで!?」
「俺はもう先約がいるから」
『私も』
……なんて、言ってみたり。
本当は、ロクな思い出がないから。
「2人で行くのか?」
「いや、違うけど」
『私は、その……友達と!』
「そっかー……華がない、陽ちゃんと行くとかさークラスの奴らと行くとかさー」
「なんで俺も行くことになってるんだ。俺彼女と行くから」
「リア充は!爆発しろ!」
陽くん彼女いたんだぁ。
どこまでも可哀想な御門くん……
お好み焼きを食べ終わってみんなと解散した。
寮に帰ると玄関で会長と遭遇した。
「……おう、妃代」
『あ、会長』
うわーなんか気まずいな、あんなことあったから気まずいな!
目を合わせらんない!
玄関で立ち止まったまま、無言の時がすぎる。
うわぁああ!自分の部屋に早く戻りたいけど動きづらい雰囲気!
固まったままでいると、足をギュッと掴まれる感覚がした。
おっ、おばけ!?
……とか思って下を見ると、そこにいたのはあの小さい双子ちゃん。
蓮の弟妹の千絵ちゃんと俊太くんだった。
「……ひよこさぁん」
目に涙をいっぱいためて、私を見上げる。
かっ……可愛い!!
『ど、どうしたの?ていうかなんでここに……』
「蓮くんがいないよぅ……」
あー……お兄ちゃん探しに来ちゃったのね。
「蓮くんって……青峰か?」
『あ……はい、この子たち蓮の弟妹です』
「あいつな……朝コンビニでバイトしてたけど。そこ行ってみるか?」
朝っぱらからバイト行ってたの!?
バイトの合間って言ってたしね……そこに戻ったのかな?
会長に案内してもらって、そのコンビニへと向かった。
「青峰なら早番だけですよ?」
「『え?』」
奴は別の所にバイトしに行ったというのか……!
俊太くんによるとあのガソリンスタンドにはいなかったみたいだし。
何個掛け持ちしてるんだ奴は……!
「おーいちび。なんかおにーちゃん言ってなかったか?」
俊太くんを肩車してる会長が問いかける。
なんかイタズラされてるけど。
ほっぺすっごくブニブニ引っ張られてるけど。
なんか笑ってイタズラ許してる。
意外と小さい子に優しいんだね。
千絵ちゃんは「蓮くーん」って泣いている。とても話を出来る状態じゃないですこの子。
「蓮くんのかたぐるまはもっと高いぞ!お前低い!」
「……そんなに高いのがいいならこれでどうだぁ!!」
すごい勢いで俊太くん持ち上げたよ会長。高い高いの勢いじゃないですよそれ。
俊太くん……楽しそうでなによりです。
『会長……小さいことを指摘されて怒るとか器小さいですよ?』
「あくまで青峰が大きいだけで俺は小さくないからな?」
そうですね、会長平均はあるよね、たぶん。
170cmは超えてるか。
……雪村くんと対して変わらなかったけど、身長。
「あっ!蓮くん!」
しばらく歩いていると泣き止んだ千絵ちゃんが顔を輝かせた。
……お兄ちゃん大好きだねぇ。
蓮、次は工事現場って。
多彩だねお仕事。様々だね。
「蓮くん!」
「うわっ!なんでお前らここにいるんだよ……ひよこと会長まで」
「そいつらが寮あたりで泣きついてきたんだよ、妃代に」
「まぁたお前ら勝手に家出てきたのか」
蓮は何かを考えたあと、私を見て申し訳なさそうに口を開いた。
「あー……ひよこ、こいつら預かっててくんね?」
帰らせんのも心配だし、仕事まだ終わんねぇし。と渋い顔で呟く。
『いいよ!』
短い時間だけど蓮が迎えに来るまでこの子達は私のもの……げふんげふん。責任をもって私が預かりましょう!!
「ありがとな」
そう言ってあの可愛い笑顔を私に向ける。
可愛いってところは似てるよ、3人とも!
仕事している人に呼ばれ、蓮は仕事の方に戻っていった。
寮に帰って、部屋に入ろうとする。
『会長はついてこなくていいんですよ?』
「しゅんはこいつであそぶぞ!」
「……こいつ“で”じゃなくてこいつ“と”だろ、せめて」
俊太くんが離してくれないんですね……
あーあ、髪の毛引っ張られて痛そう。
会長を部屋の中に案内する。
蓮に会って落ち着いた千絵ちゃんが私のベッドにダイブする。
それに続いて会長から飛び降りた俊太くんもダイブ。
埃舞うからやめてねー?
会長はため息をひとつついて床に座った。
『何か飲みます?』
「お構いなく」
疲れきった様子で手をひらりと振った。
さっき会長が部屋を出ようとしたら俊太くんが「逃げるのか!まおー!」とか言ってぶつかってきた。
何故か私に。
「逃げれねー」とか会長が疲れきったように呟いたのを聞いて思わず笑ってしまった。
俺様会長も子供には敵わないってか。
「しゅんジュース!」
「ちえジュース!」
同時に言い放った。さすが双子……!
ジュースなんかあったっけ?
冷蔵庫を開いてみるとオレンジジュースがあった。
あ、昨日飲みたいなーって買っておいたっけ。
会長はコーヒーでいいかな?
『はいどーぞ。会長コーヒーでいいですか?』
「おう。悪いな」
適当にあったお菓子を並べれば2人が嬉しそうに頬張りだす。
『すみません。結局ここまで付き合わせちゃって』
「妃代は謝ってばかりだな」
小さく笑う声が聞こえた。
「俺がやりたくてやってんだからいいんだよ。メンドかったらちびがギャーギャー喚こうが気にせず部屋から出てる」
『そう、ですか?』
「俺がお前のそばにいたいから」
小さくそう言った会長を思わず見た。
ぱちり、と目が合った。
「……ようやくこっち見たな」
そういって、彼は優しく笑った。
そういえば、今日。
気まずいとか言って会長の顔、全然見てなかった。
ボスリ。
突然会長めがけて飛んできた……枕。
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