プロローグ





「転校するぞ」


『は?』


帰宅直後
玄関に立っていたお父さんのさらりと言った言葉に口がぽかんと開いた。



クラス替えがあり、落ち着いてきた4月下旬に、なんて言ったんでしょうかこのお父様は。



「知り合いの学校に転校だ。遠いから寮に入ることになるがな」


『知り合い?』



以前家に遊びに来た人で校長やってまーす!!って人がいたようないなかったような……



でも、そこって確か……


『それって、朝日学園?』

「よくわかったな」

『朝日って男子校のはずだけど』

「そう、その朝日だ」


そう、その朝日だ
……じゃないよ!


生みの親が私のことを今まで男と思っていたなんて。

はっ、もしかして私って男だったの!?



「んなわけあるか」


おおっと、全部口から出ていたらしい。

クソオヤジとか暴言を吐かなくてよかったよかった。


確認しよう。

私は女であり、
朝日学園は男子校だ。



……やっぱり通うことは無理ですよね?あれ?



「特別許可をもらった。荷物は寮に送っといた」

『……はぁ!?』



お父さんの言葉に慌てて私は自分の部屋へと走った。




……ない。



お気に入りの人形も
机に置いてあった参考書類も
服のほとんども

すっからかん、というやつだ。
なんてこった。


呆気に取られている私の肩にお父さんは手をポンと置いた。



「これ、住所だからな」


にこやかに言うお父さんが妙に腹立たしい。

なぜ、いきなり、男子校に!

何を企んでいるこのオヤジは……




『行かないから』

「退学届ももう出しておいたからな!」

『ふざっけんな!』


だから今日先生様子が変だったのか!?
言ってくれてもいいじゃないか!

私が言わなかったから変に気を使ってくれていたのだろうか。


この年で学校行ってないとか。
高校中退とか嫌なんだけど。

だけど、男子校に入るとか頭狂ってるでしょ。

お姫様になりたいわけでもないんですけど!?



……行き場所を失ったから、とりあえず行ってみようかな。

仕方ない。行くだけ行ってみよう。


もしかしたら共学になります!とかいうオチかもしれない。
絶対にないわ。



『……あ、ねぇねぇ。男装とかしたほうがいいの?』

「なんでだ」



いや、物語でよくあるじゃん。

男装して男子校に潜入だぜっ!ってやつ。
それはいいのか。普通でいいのか。



『じゃあ改めて……行ってきます』



最近生まれた弟の一番最初に話す言葉が
「お父さん臭い」
になれ。とくだらない念を飛ばしながら我が家のドアを閉じた。





地図を確認しながら向かった場所。

今日まで通っていた高校とは比べものにないくらい

大きくて
綺麗で

だけどどこか荒れている雰囲気をかもしだしている。



ここが朝日学園。
……公立だよね?



放課後なので帰宅していく生徒が歩いて校門をくぐっていく。
生徒たちがチラチラと私を見る。

男子校だから女子が近くにいるの珍しいのかも。



寮って学校のすぐそこの建物かな。
生徒結構入っていくし。
マンションじゃん、でかいじゃん。
部屋広ければまだ許す。

校門を出て他の場所に向かう人間がいるところからして、全寮制ではないようだ。



「……桃瀬妃代【ももせ ひよ】ちゃん?」



そこに立っていたのは何度か会ったことのある……優しげな表情の男性。




『お久しぶりです』

朝日学園校長であり、父親の友人の桐谷晴信【きりたに はるのぶ】さんだ。


「よくきたね。取りあえず、校長室に行こうか」

『はい』



校長室で告げられたのは、意味のわからない言葉。


「この学校に君の“婚約者”がいるからね」

『……はぁ?』

「はぁ?って……聞いてないの?英治に」



英治っていうのは私のお父さんの名前だ。


『聞いてません』

私の言葉を聞いて、晴信さんの笑い声が静かな校長室に響き渡った。


「英治らしいね。いきなり送り出されたんだ」


お父さんと同じ歳には見えない、少しだけ若く見える笑顔で微笑む晴信さん。


『そういう話なら、お断りします』

「え?」



キョトンとした目の前の人にくるりと背中を向けて
私は大きく言い放った。


え、じゃないでしょ。
普通の反応だと思う。

婚約者って何よ。
どっかのお偉いさんじゃないんだから……お偉いさんでも今更婚約者とか、政略結婚的なのとか、ないだろ。

誰だよ婚約者。金持ちでも捕まえたんですかお父さん?お金持ちになりたいんですか?

お断りだ!


そもそも私は。

『恋愛に興味ないので』



恋愛なんて、したくないから。


そりゃあかっこいい男の人を見たらいいなーって思いますよ。観賞用として。自分がどうこうなりたいとか、ない。

……恋愛なんて不必要なの!!



驚いているであろう晴信さんを無視して私はバタリとドアを閉じた。


 

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