りんかいがっこー。2
周りの人たちの視線が痛い。
でも、この際言いたいことを言ってしまいたい。
『私にも好みってものがあるんですけど!もちろん、あんたらみたいなわがままな勘違い野郎達は論外!だから!!』
私はそういって背中を向け、海の方へと走っていった。
……いや、蓮はわがままな勘違い野郎じゃないけどね。
恋愛なんてしたくない、したくないの。
だから、ねぇ、お願い。
私をそういう対象で見ないで。
Tシャツを脱いで、海に入る。胸あたりまで水があるくらいの深さまで行って思い出した。
……私泳げないじゃん。
どうしよう、戻らないと。
でもなんか気まずいなぁ、戻りたくない。
でも波が来たら溺れるのは確実だ……。
「おーい、妃代ちゃーん!」
バシャバシャと波を立ててやってきた御門くん。
私に近づいてきて「はい!」と渡してきたのは浮き輪。
『……え?』
「妃代ちゃん泳げないって言ってたよね?バスの中で!」
……言ったっけ?自分でも覚えてないんだけど
『よく聞いてたね……ありがとう』
ここは素直に受け取っとこう。
えい、浮き輪装着!
「いや、俺じゃないよー、これは蓮ちゃんから!「気まずいだろうから」って言ってたから俺が代わりに渡しに来た!」
『……そっか』
小さく呟いて下を向いた。
『……さすがに、言い過ぎたかなぁ』
私の言葉で御門くんがキョトンとする。
「そう?まぁ、本音を隠してたら何も見えてこないし、出してったほうがいいんじゃないー?」
『言い方ってものがあるでしょ?』
「妃代ちゃんでも人が傷つくこと気にするんだね」
ヘラリと笑ってそういった御門くん。
……いや、気にするよ?まぁ、いきなり自己紹介で放っておいて、とか他にも数々の暴言を吐いてたような気がしなくもないですけれども。
「まぁ、あのくらいで諦めるような3人じゃないと思うけどねー」
ニヘリと柔らかい笑顔を浮かべる。
思い出したように「あっ」と声をあげた。
「みんなでビーチバレーするんだった!!妃代ちゃんも行く?」
『私は……いいや』
「そっか。気をつけてね!気が済んだら上がってくるんだよ?」
そういって私に軽く手を降って浜辺の方へと泳いでいった。
ふぅ、と一息。浮き輪でぷかぷかと浮きながら溺れる不安がなくなったことに安堵。
……もうすこし、深いところ行ってみようかな。
ぱしゃぱしゃと必死に泳いで、少し深めの場所へ。
泳ぎが上手な人達が素晴らしい泳ぎを披露している。いいなー泳げるの。
疲れて、近くの岩場で休もうと思って私は岩場に近づいた。
……その瞬間。
力強く、足が引っ張られた。
突然のことに力が入らず、私は浮き輪から離れてしまい、下の方へと沈んでいく。
垣間見えたのは、笑う女の子……?
泳げないんだって。
もがいても、もがいても、上に上がれなくて。下に沈んでいってる気がして。
……あぁ、もうダメかも。
そう諦めかけた時に、上に引き上げられる感覚。
それは力強い、感覚で。
「……っ、おい!大丈夫か!?」
ぼやけて見える人。
『ど、して……』
ゲホゲホと咳き込みながら、心配するような声の主を見る。
「言ったろ。馬鹿な奴がふざけて溺れないように監視してるって」
……馬鹿って、酷い。
ようやくはっきりして見えた会長の顔。
……言葉とは裏腹の、心配したような顔。
『……ありがとう、ございます』
「足を引っ張られたんだろ?ありゃあ……さっき黒松に言い寄ってた女達だったかな」
……あぁ、あの人達だったんだ。
『……っ』
ズキリ、と足が傷んだ。
多分、溺れるときに岩場で怪我した。
「おい、どうかしたか?」
『なんでも、ないです』
怪訝な顔をした会長が「隠すな」といって私を見た。
どうして気付くの?
どうして無視してくれないの?
『……足、怪我したっぽいです』
私がそう言った途端、会長がひょいと私を
……お姫様抱っこをした。
ちょっと!なんか恥ずかしいからやめてほしい!
「あー怪我してんな。部屋戻るか」
膝から血が流れ出ているのを確認した会長が少しずつ浜辺へ戻り出す。
『あの、大丈夫ですから』
だからお姫様抱っことか勘弁して欲しい。
というかこの体制で泳ぐの辛いと思うし、会長が。
「なんとかなるから気にすんな。怪我してるところ海水ついたら痛いだろ?遠慮すんな」
たしかに、痛いですけど。
遠慮してるわけじゃないし!!
私が何を言っても会長は聞く耳を持たず、そのまま部屋に連れて行かれた。
……だから視線が痛いんだって。今度は鹿央の女子だけじゃなくて面白そうに見る朝日学園の生徒たちの視線も!
部屋につくなり優しく降ろされて、会長はそこらじゅうを漁りだす。
お目当ての救急セットを見つけて満足そうに私に近付いて来た。
『……会長、眼鏡とパーカーは?』
無言のままでは何か気まずかったので集中して手当てをしている会長に問いかけてみた。
今の会長は、私が海に入る前にはかけていたいつもの眼鏡もつけておらず、着ていたパーカーも着ていない。
「……あー。ぶん投げてきた」
……どこに?
「邪魔だろ。海の中じゃ」
そうだけど……
『そこまで慌てなくても……』
「お前が溺れてんのに慌てないわけないだろ」
手当てが終わった箇所を優しく撫でて、会長が優しく微笑んだ。
あぁ、そうか。
私のために……
「無理すんなよ」
『……ごめんなさい』
迷惑をかけた。
酷い言葉で突き放した。
……なのに、優しくしてくれる。
何に対してのごめんなさいなのか、わかったらしい会長が苦笑する。
「こっちの方が悪かった。でもな、言いたいことはハッキリ言えよ?」
お兄ちゃんがいたらこんな感じなんだろうな。と私は心の中で思った。
「ちゃんとお前のことを知りたいって、思ってるから」
少しだけ乱暴に私の頭を撫でて会長がニッと笑った。
静かになった部屋に、ノックの音が響いた。
会長が私の手を何故か掴んでから「誰だ?」とドアに向かって声を出した。
「大和」
聞き覚えのない落ち着いた声。
会長は私の手を離してドアに向かった。
開かれたドアの先にいたのは知らない人。
並んでいる会長よりも少しだけ背が高い、優しげな雰囲気を持っている人だ。
「どうした?」
「どうしたじゃないよ……ほら、上着と眼鏡!いきなり放り出したりすんなよ」
「おー、悪いな卓哉」
卓哉、と呼ばれたその人。
会長の友達ってことは……3年だよね?
卓哉さんと目が合った。
合った瞬間にニコリと微笑んだ。おぉ、感じの良さげな人じゃないですか。
「はじめまして、妃代ちゃん。俺の名前は杉山卓哉【すぎやま たくや】。よろしくね」
『よろしくお願いします』
名前聞いたことあるような……前料理がどうのって話を会長としたときに出てきてたな。
料理が得意な人なのかな?
女子1人ってこともあってか私は自己紹介しなくても知られているらしい。
いちいち自己紹介しなくて良くて楽だね。
「おいっ!ひよこ!」
ドアが勢い良く開かれて蓮が現れた。
あれ?ビーチバレーしてたんじゃなかったの?
「なんか会長に運ばれてったって陽が言ってて……っ!大丈夫か!?」
『うん、大丈夫だよ。ごめんね』
「お前遅かったなー」
「……海の家手伝ってて気付かなかった」
「臨海学校きて何してんの青峰」
ビーチバレーしてなかったのか。
『未来くんは?』
いないね、彼。
「黒松くんならさっきロビーの方で鹿央のやつらに捕まってたけど」
うーん、ドンマイ!
私怖いから助けに行きたくない!
いいんじゃね?ってことになって未来くんは放置することになった。ごめんね未来くん!
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