(一部同性愛っぽい表現注意)
またそいつは怪我をして帰ってくる。
何度でも、致命傷でも、軽傷でも、いろんな傷を持ち帰ってくる。
それでもそいつは、俺の元に来ようとしない。
「小野寺」
俺がその名前を呼べば、名前の持ち主……の上に乗っかっている男が悪態をつく。
所謂「飼い主様」におどきになられるよう進言する。
「この時間は小野寺の検査があると言っているでしょう。学んでいただきたい」
何やら文句を言いたげな木下とかいう飼い主様に御退出願った。半ば無理矢理。
知らん。お偉いさんとか知らん。俺は仕事をするまでだ。
「小野寺ぁ、怪我ぁしたら医務室に来いって言ってるよな?」
「……別に大したものではないので放置してもいいかと思いました」
「大したものなの。放置していいもんじゃねぇのそれは」
平然と言ってのける小野寺の体はそりゃあまぁ傷だらけで。
しかも治ってないのに無理するから傷口も開きまくっている。
なんてこった。これが大したものじゃないとか狂ってやがる。
「検査なんていりませんよ」
「お前は定期的にしないと駄目。こねぇし、何より出身が出身だからな」
奴隷市場出身なんて、あんな酷い場所からきてりゃどっか弱ってる可能性だってある。
だから定期的に俺が自らこいつの元に来ては検査をしてやってる。ありがたく思えっての。
「……なら尚更、いらないでしょう。奴隷なんて、死んでもいい道具なんだから」
「俺はそんな風に思ってねぇよ」
「またそうやって嘘を」
普段笑いもしねぇくせに。
自身のことをそいつはあざ笑う。
何でそうやって他人を突き放そうとするかなんて知らねぇけど。
俺は軍医だし少しくらいは信じてくれてもいーんじゃないですかぁ。
菌を防ぐためにゴム手袋をつけて、開いている傷口を抉るように触れる。
ひゅ、と小野寺が息をつまらせたのなんて、容易にわかった。
「……っ、なに、すっ」
「痛くないだろ、道具なんだから」
ひ、ひ、と喉をひくつかせていたのはわかる。けど知らん顔。
「……痛いか?」
次第に体も震わせていくそいつ。
びくりと揺れて、声には出さないものの辛いんだって簡単にわかる。
あ、やりすぎたか。
言葉に出さず、小野寺は俺の言葉に首を縦にこくこくと振る。
涙で瞳に膜を作ったそいつの傷口から手を離して手袋を捨てる。
「こ、の……っ、鬼畜軍医、ッ」
は、は、と荒い息を犬のように吐き出しながら小野寺は俺を睨みつけて呟いた。
他の奴はそうそう見られないだろうな。
こんなにこいつが表情変えんの。
もっと他の奴に見せてやりゃいいのに。
「ちゃんっ……医務室に、行きます、もっ、いいでしょ……」
「そう言って来ないんだろ、お前のことだから」
押し返してくるそいつを無視して、診ていく。
弱ってるお前の力なんざ屁でもねぇな。
一通り異常がないから大丈夫だろ。
そいつをベッドの上に倒して、頭を撫でる。
「お前ちゃんと寝てないだろ、寝ろ」
「……子供扱いしないでください」
「でっけぇ子供は手が掛かる。ほら、寝ろ」
時間はかかりつつもゆっくりと眠りにつく小野寺。
玩具のようなそいつの心臓は、ゆっくりと規則的に生を刻んでいた。
玩具の心臓