武力派のお偉いさん方によって建てられた慰霊碑。
小さな慰霊碑。
それを眺めて彼女はゆっくりと目を閉じた。
平和になったらしい世界。
武力派が負けて、文治派が勝ったことは彼女にとってどうでも良くて。
数年前の抗争で、仲良くなった男が死んで。
数か月前の終戦で、同じ部屋の親友が死んで。
たくさんの仲間が、死んで。
何もなかったように平和な世界で、生を意味もなく彼女は過ごしていた。
平和な世界が不幸ってわけではない。もちろん平和はいいものだ。
幸せなわけでも、ないけれども。
大切な人たちを殺した人たちを、彼女は怨む気にもなれなかった。
戦争だから仕方がなかったのだと、わかっている。
自分だって、誰かの大切な人間を殺したのだから、同じことで誰かを怨むことはできない。
それに、大切な人たちを殺した人であろう「青年」は幸せそうで。
……ただのそっくりさんかもしれないが。
その人の幸せを奪ってやろうとも、到底思えなかった。
彼女――真穂は目をゆっくりと開いて、慰霊碑から目を逸らした。
「彼」の歌をもっと聞いてみたかった。
相棒の犬も、もっと可愛がりたかった。
恋愛未満の愛情は行き場をすぐに失って。
「彼女」はいつも私の話を聞いてくれて。
あんな嫌な世界で、親友と呼べるほどの存在がいたのは救いになっていた。
「みんな」は個性豊かで、強くって。
囲まれているだけで楽しかったし、無敵だとすら思っていた。
今思えば、
私は、たくさんの感情を、想いを。
戦争で殺してきたのだ。
死んでいった想いの話