「好きな人ができたから、別れてほしいの」
自分よりも幾分か小さい彼女が、笑顔でそういった。
数年前に告白してきたのは目の前の少女だ。
歳の差も気にせずに、小学生の頃から俺の周りをちょろちょろと、飼い主に構ってもらいたい子犬のようにしていたのは彼女だ。
「誰」
「大学の人」
ずっと好きだったと、言ったのは彼女なのに。
入りたての大学で好きな人ができたの。
あなたとは歳が離れすぎてるもん、なんて彼女は笑う。
何で笑うの。
「じゃあ、バイバイ」
手を振って彼女は俺に背を向けた。
視界が歪む。
頬を何かが伝う。
ねぇ、行かないでよ。
「待って、真琴」
「えーちゃん、大丈夫……?」
明るかったはずの部屋が薄暗い。
背を向けたはずの彼女が、俺の顔をのぞき込んでいた。
「……あ、ぇ」
彼女は心配そうに俺をのぞきこんでいて。
……あれ、夢か。
嫌な夢だ。
周りからは「真琴の一方通行恋愛」と言われるけどそうでもない。
俺はこんなにも、彼女が好きで。
夢を見て、泣いてしまうほどには彼女が好きで。
「怖い夢でも見た?」
「うん、情けないけど……すごく怖い夢を、見たよ」
何なんだろう。
俺は自信がなかったのだろうか。
友人に「彼女にフられることはありえねぇべ」とか豪語したくせに。
「は、弱ってるえーちゃん可愛い」
……全然嬉しくないんだけど。
「真琴、」
「なぁに」
「……やっぱ、いいや」
「えええ、気になる」
好きな人できたりしたら、教えてね。
そんなこと、怖くて言い出せなかった。
夢が現実になることが、怖かった。
横にいる彼女を、抱きしめて。
「えーちゃん、大好きだよ」
彼女は俺の夢を、気持ちを見透かしたんじゃないかってくらいのタイミングで、愛の言葉を呟いた。
真琴は俺が好きで。
俺は真琴が好きで。
ずっと変わらないんだって、わかってはいるのに。
縋るように抱き締めた