「また怪我したのか、小野寺」
「……」
軍医殿が呆れたような声を漏らす。
廊下ですれ違って声をかけられて足を止めて。
面倒くさいと言わんばかりに、俺はじっとりと睨んでみせた。
「ほら、小野寺来い」
「嫌です」
「てめぇの意思は関係ねぇんだよさっさと来い」
無理やり引っ張られて医務室に連れてこられる。
「手出せ」
「……」
「さっさと手を出せ20歳児!!」
何だそれ、20歳児。
子供扱いしないでいただきたい。
椅子に座って手を出してみる。
軍医殿は満足したように手当を始めた。
彼の手は、じんわりと温かい。
掴まれている腕の箇所から熱が通ってきているように感じる。
ぼうっとしていると、手当がいつの間にか終わっていたようで、べしりと頭を叩かれた。
「小野寺疲れてんなら休んでけ」
「……大丈夫です」
「い・い・か・ら、休んでけ。少し熱ある」
「ないです」
「俺があるっつったらあるんだよ」
横暴な。
確かに少し、体がだるいかもしれない。
そう言われたからそう感じるだけかもしんない、よくわからん。
そうだとしたら俺、言葉に惑わされやすいのかもな、馬鹿みたいだな。
ベッドに横になると眠気が襲ってくる。
そういえば最近まともに寝てなかったかもな。
「何か欲しいもんは?買ってくるぞ」
「……別にそこまでしてもらう義理はありません」
「義理もくそもねぇ、医者だから言ってんだよ」
「別に、ないです、この部屋にあるもので、事足りるでしょ」
「おっまえは本当に……」
軍医殿は苦く笑う。
意味わからん。
「うん、もういいわ、頑張ったな、小野寺」
頭を撫でられる。
何だ、周りから見たら奇妙に見えるかもしれない。
でも、まぁ、他に人はいないし。
別にいいわ。否定する必要もないし。
「ゆっくり休めよ」
そう言われたからには休もう。
そうしよう。
俺はゆっくりと目を閉じた。
眠りにつくまでは時間がかかってしまったけれど。
いつもよりは寝れる気がした。
嫌なふり、してれば。
不機嫌なふり、してれば。
拒否、すれば。
いつかは嫌になって手放してくれると思ってるのにな。
ほんとうのぼく