ふたりのはなし。 | ナノ




大学生活も落ち着いて。

動画投稿、再開しました。



しばらく経ってから見返して、コメントとか見たら面白いんだよねー。




ツイッターの通知音でケータイを見ると、ツバサさんからリプライが来ていた。


〈ツバサ@まーちゃむ:DM送った〉


……ダイレクトメール?

何だろう。



ダイレクトメールを開くと
「定期ラジオに出てくれない?」
という文章が。




あ、あれかな。
Skypeつかった生放送。

ツバサさん定期的に生放送してるもんなぁ。




不定期にやる私と違うね。



軽い気持ちで「いいですよー」だなんて言うと「ありがとう」と返ってくる。


続きには「本社の場所わかる?」と書かれていた。



……What?


本社とは何だ。

え、何々。




「え、本社?生放送ですよね?」と返すと返ってきた言葉は、

「生放送、公式の」



……おう。
公式のラジオ、我らがスマ動画という投稿サイトの定期ラジオ。
確かにいまMCはツバサさんだ。

公式ラジオってあれだよね、カメラ使うやつだよね、私姿晒すの?



もう承諾得たって公式に言っちゃった、だなんてツバサさんは楽しそうな顔文字をつけてDMを送ってきた。


……ぐぐぐ、騙された感。
というかそういうのって普通公式から送ってくるものでしょ!



やり取りを繰り返す内に断れなくて、参加することになった。




うぉぉぉ、まじかぁぁ……
サングラスとマスク用意しなきゃ。
寧ろ顔全部隠れるマスクとかの方がいいかな。


強盗かぶってそうマスク+サングラス+普通のマスク
いや変態だろこれ。



リビングに行くと仕事帰りで疲れているらしいえーちゃんがソファで横になっていた。


寝てる。

ご飯食べたしお風呂入っただろうし、まぁあとは寝るだけだけど。


自分の部屋で寝なよ。




えーちゃんのほっぺをぷにぷにつついてみる。
柔らかい。



「……んむ」


嫌だったのかごろりと体を動かして私の指から逃れた。




「えーちゃん」



背を向けているその人に声をかけると「ぁい」と半分寝ているような返事が返ってきた。
起きていることには起きているらしい。

あいって。可愛いな。



「私がもし迷子になったら迎えに来てくれる?」

「うん……」



そう。
まだ場所は大学付近と近所しか把握してないわけで。


今の状態じゃあ迷子になる、確実に。



「あのね、その内何か行かなきゃならないから」

「うん……」


別にえーちゃんに隠してるわけじゃないけど、その方面に疎いから言ってもわからないだろうし言わない。




「したら確実に迷子になるから」

「うん……」

「迎えに来てほしいな」

「うん……」



……聞いてる?
起きてる?寝てるの?




「えーちゃん聞いてるー?」

「うん……」

「……ご飯おいしかった?」

「うん……」

「私のこと好き?」

「うん……」

「今日一緒に寝よ!」

「……やだ……」



おい。
聞こえてるのか。
そして拒否られた、真琴ちゃんショック。


えーちゃんはゆっくりと体を動かして私の方を見た。

目はとろんとしていて、眠たそうだ。
なんか、うん、起こしてごめんなさい。




「……真琴、寝相悪いから、明日仕事あるときはパス。寝れねーもん……」

「ごめんなさい」



私寝相悪いらしいもんね。

相手が寝付けないレベルなのは初めて知った。



しょぼんとうなだれると笑って私の頭を撫でてくれた。



触れるだけのキスをして、えーちゃんは立ち上がる。





「部屋で寝る……おやすみぃ」

「おやすみー」

「もし迷子になったら……すぐ電話して。迎えに行くから」


あ、ちゃんと聞いててくれたんだ。






─おやすみなさい。─
(旦那様はいつだって優しいのです)





「仕事中でも?」
「えー、行く努力はするけどたぶん無理」
無理なのかーい。





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