「ねぇねぇ、えーちゃん!」
ソファに座ってテレビを見ていた彼の肩を後ろから叩くと、彼は体の向きをテレビ方向のままソファの背もたれに頭を乗せる。
「なしたの」
無意識なのか方言まじりのその喋り。
長い期間地元を離れていても方言は抜けないようだ。
そんな喋り方に癒されつつ、その顔を覗き込んでにっこりと笑顔を作った。
「壁ドンしてほしいの!」
「壁ドン……?」
不思議そうな顔をするえーちゃんに向かって大きく頷いた。
壁ドンといえばドキドキするシチュエーションの1つだろう。
そういうのは不意打ちでやってもらうもん?
だぁって、言わなきゃえーちゃんはやってくれないもーん!
「何それ」
何それ!?
「ほ、ほらー!腕と壁で逃げ場を無くすやつ!ドキドキするやつ!壁ドンっていうんだよー!」
わかるよね、わかるよね?
「……を、してほしいの?変なの」
「女子の夢だよ!」
えーちゃんは不思議そうな顔をしながらソファから立ち上がった。
わーい、やってくれるの。
壁の方に寄ってみる。
近付いてくるえーちゃんを見ながら内心にやける。
もう、そこまででもドキドキするわ。
優しく、とん、と置かれると思っていた手。
それは、勢いよく。
そう、殴る勢いで私の顔の横に現れた。
突然のことに、ドキドキと心臓が脈打つ。
「……ドキドキした?」
「えぇ、ばっちり」
不良に絡まれた弱虫少年の気持ちがわかる程度にはドキドキした。
えーちゃん違うこれ違う。
言葉的に間違ってないけど何か違う。
壁ドンじゃなくて壁ドォン!だもんこれ。
少し後にこのことをツイッターで呟くとフォロワーさんから大量の「w」を貰った。
「旦那様は天然なんですよw」なんて返してみたけれど。
あぁぁ……夢の壁ドンが……
正直泣きそうだよ。
今度は画像を見せて再チャレンジしてみようか、だなんて。
─乙女の夢敗れたり─
(天然の旦那様には通用しないようだ!)
「女の夢って変なんだな」って言われたけど変なのはあなたの思考回路ですよ、えーちゃん。
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