ふたりのはなし。 | ナノ




えーちゃんが東京に就職すると地元を離れたのは2年前。

私が受験勉強を始めたのも2年前。




えーちゃんについて行こうと決めて東京の大学に進学することを両親に相談すると「ここならいい」と条件付きで出された大学は、私のレベルなんかじゃ到底無理な偏差値だった。


勉強出来ない私は、もちろん勉強を優先していたため東京に来ることはしていない。


これからのことを考えれば2年の我慢なんてなんのその。




実況動画も自粛してたし。
……これは1年だけ。


そして、無事合格して東京進出したわけだ。





えぇと、何を言いたいかというと、その。






えーちゃんハウスに来るのは初めてだという話です。








「広い!」



えーちゃんの住んでいた部屋は思っていたより広かった。


1人暮らしってもっと狭いものかと思ってた。
部屋とかないかと思ってた。



「まぁ、そこそこ稼いでるからね」




えーちゃんは人柄の良さと頭の良さで有名な企業に就職した。


どう?私の旦那様頭良し人良しついでにスタイル良しのパーフェクトっぽい人間なのですよ?
……まぁよく寝坊するけど。仕事には寝坊してないようだからまぁいいか。


昔から周りの雌猫からえーちゃんを守るのには苦労したものだ。

1番の雌猫は私か?





「真琴がいつ来てもいいように、広めの部屋にしといた」



そういって、優しく笑う。
素敵。




「うん、ありがとう!あっ、そうだ」

「んー?」

「色々買いに行かなきゃ!日用品とか!」



こっちで揃えれるであろうものは持ってきてないから買わないと。




えーちゃんはキッチンがある方に向かう。





「日用品……」


「歯ブラシとかぁ、お茶碗とか!あ、そう、マグカップはお揃い買いたい!」

「えっ、あー……うん」




返ってきたのは歯切れの悪い返事。


え、何、引かれた?



お揃いのマグカップ欲しくない?私は欲しい。

なんか夢じゃない?同棲に、お揃いマグカップ。


あとあと、同じコップに歯ブラシーとか。





お湯を沸かしたらしくケトルから沸騰を告げる音が聞こえてくる。




お湯を何かに入れて、えーちゃんが戻ってきた。





「買わなくていいよ」

「えっ」



お揃いとか嫌なタイプだったっけ?



しょんぼりうつむくとマグカップを渡された。

中には暖かい緑茶。




「ほら」



かちゃん、とマグカップ同士がぶつかった音が耳に届いた。



顔を上げると、目に映ったのは、

色違いの、お揃いのカップ。




可愛らしい猫が描かれていて、背景の色が違う。

私のはピンクで、えーちゃんのは黄緑。





「もう買ったから。えーと、他にも必要そうなものは、いろいろ」



思い出すように視線を右上にそらしながら話す。



えーちゃんの好みとは到底言えない可愛らしいカップ。

わざわざ、私のために買ってくれたんだ。
こんな可愛いカップ、買うの恥ずかしかったんじゃ……ちょっと買ってるとこ見たかった。




「ありがとう、えーちゃん」


「まぁ、その、あれだ」




単語を途切れ途切れ話しながら話す。


眉間あたりに手を持っていって、悩むような格好で顔を隠した。





「……俺も真琴が来るのをこんなの張り切って準備しちゃうくらいには楽しみにしてたってことっすよ」



柄にもない口調で、そう言った。



楽しみにしてた。

その言葉が嬉しくて、彼に飛びつこうとした。
……が、テーブルに阻まれてしまったので手を握った。




「えーちゃん大好きぃ!」

「はーい、ありがと」


いやそこは「俺もだよ」とか返してほしかった。

はーいって。緩いな。

まぁ楽しみにしてたってお言葉をいただけたから、いっか。




じゃあ届いた荷物を片付けるだけでいいのか。

ちょっと一緒に出掛けたかったけど、私のために、色々買い揃えてくれていたのでいいの。




一緒に荷物を片付け始める。




「真琴、疲れてない?」


「え、うん。全然」



段ボールに手をかけてえーちゃんは笑う。





「じゃあ片付け終わったら外出てみようか」


案内するから、と。

ついでに今日の夜ご飯の買い出し、と。




「デート?」

「うん、そうだな」




私は大切な機器が入った段ボールを勢いよく開け始めた。






─新しいおうち─
(さっさと片付けてえーちゃんとデート!)





「真琴これゲーム持ってきすぎだべ」
「好きなので」
「いや、それは知ってるけど。PS3とかもうあるよ?2台もいらなくない?」
「……確かに!」





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