事のきっかけは、Skypeの通知音だ。
――せっかく会える距離に住んでるんだし、一緒に実況しない?
ツバサさんの、その一言だ。
むむむ、えーちゃん不機嫌になるだろうな。
そんな風に思ってたんだけど……
「別にいいんでない?」
淡々とそう吐き出された。
無理に強がってるわけでもなく、淡々と。
……私への愛が冷めた……とかじゃないよね?
「俺がいる時に、うちでやるならいいよ」
よかったぁぁあ!愛が冷めたわけじゃなかったぁぁあ!
「えーちゃん大好き!」
「うん?俺も真琴好き好き」
適当か。
最近えーちゃん私の扱い酷すぎる。
ツバサさんに大丈夫な日時と我が家に招くことを伝えた。
他の実況者さんとコラボとか、初めてだからちょっと楽しみ!
そして迎えた当日。
「こんちはー!」
チャイムがなってドアを開くと……ツバサさん、ではなく喜田さんが笑顔で立っていた。
「あらまーちゃん、これお土産。綾瀬に切らせて?」
わぁ、美味しそうなケーキ……じゃなくて。
「な、なんでまっきーがここに」
「面白そうな話聞いたから。あの金髪は?まだ?」
えーちゃんが話したのか……喜田さんが実況の知り合いだって伝えたから。
金髪って。ツバサさんの扱いの酷さよ。
「もうすぐ来ると思うんですけど……」
見計らったように、インターホンがなる。
あ、来た。
「はーいいらっしゃい」
「まーちゃむちゃんおじゃまー!」
ばっ、と手を広げられた。
あ、ハグされる。
そう思った瞬間、後ろに引っ張られて後ろから抱きしめられた。えーちゃんに。
「いらっしゃい金髪くん」
「……何だ、おっさんいたの」
「えーちゃんはおっさんじゃないですって!」
「ははは、おっさんだって綾瀬」
喜田さんに気がついたツバサさんはにこりと笑って挨拶した。
あ、そうか。まっきーだってわかってないもんね。
「よかったら帰りに飯食いに行きません?」
「あらやだ、ツイッターでも日常でも変わんないのね、ツバサさんって」
「……えっ」
喜田さんがにんまり楽しそうに笑って「私は子供の相手はしない主義だから」とイケボで言った。
何故イケボで返したし。
ツバサさんは驚いたような顔をした。
「えっ、まっきー?まじで?女!?」
「ネットで私の性別言ったらあなたのコミュ荒らしますから」
コミュニティ荒らすとか何それ陰湿。そして地味に怖い。
「うわー男だと思ってたわー、びびるわー」
それな。
私もちょっと男だと思ってた。
ツバサさんも家に上がって、一息ついた。
「3人だったら何がいいかなゲーム。一応パーティーゲーム色々持ってきたけど」
「あら、私はいいのよ。見てるから」
えっ、喜田さんやらないの。
一緒にやれると思ったのに。
「えー、折角だしやろうよー。あ、旦那さんも入ってもいいですけどー」
「え、ダメダメ!」
ツバサさんの言葉に私は必死に否定した。
いいわけ無いじゃないか!えーちゃんが実況……!?
「えーちゃんの素敵な声に全世界が魅了されて私嫉妬しちゃう!」
「まーちゃむちゃん大丈夫?頭が」
「ぶははは!綾瀬ぇ、全世界が魅了だって、綾瀬ぇ!!」
「うるせーなこの上司」
頭はいつだって正常ですけど。
そして喜田さんは笑いすぎじゃないですか。
えーちゃん、上司に悪態ついたら駄目だよ。
私はぱっとゲームに手を付ける。
連作で人気のあるパーティーゲームだ。
「パーティーゲームかぁ。私すごろくゲーム苦手なんだよなぁ」
ぽつりと呟いた言葉に、えーちゃんが反応する。
「あぁ、真琴昔から下手くそだよね。晃の言葉すぐ信じて自ら自滅の道辿ってったもんな」
「あれは晃くんが悪いもん!」
「はは、晃なんか信じるからいけねーんだべ」
小学生の私はそれはそれは純粋でしたからねぇ!!今も純粋ですけどねぇ!!
けらけら笑うえーちゃんに文句を告げてから、違うゲームに手を伸ばしてみる。
「あ、ホラーゲーム!これやってみたかったんだよね!」
「えっ、ホラーやんの!?」
「ツバサさんホラー苦手なんだっけ。でもほら、2人で協力できるホラーって楽しそうですよ」
ていうかなんでホラー苦手なら持ってきたんだろう。
「苦手なら持ってこなきゃいいのにー」
喜田さんが思っていたことを聞いてくれた。
「実況といえばホラーかなぁと思ってね……」
確かに。
フリーゲームだと結構ホラーが多いからねぇ。言わずもがな私も実況の多くはホラーだし。
ツバサさんがぱかりとケースを開ける。
中古で買ったらしいそれは説明書がややよれてはいたが、ソフト自体はぴかぴかだった。
「じゃ、やってみようか……」
「それが終わったら収録とかなしにみんなでゲームやりましょー?」
折角ゲーマーが集まってるんだし。
私の言葉にツバサさんは「いいね」と笑った。
「旦那様をフルボッコにしたらごめんね?俺いろんなゲーム強いから」
「大丈夫、俺はゲーム結構得意だから」
―ゲーマー集会―
(れっつ収録!)
「はーいどもども、ツバサでーす!」
「こんにちはーまーちゃむでーす!今日はツバサさんとホラー『刻印2』をやっていきまっせ!」
「茶々入れ係は僕、まっきーがお送りいたしまーす!」
「「入るんかい!!」」
「(俺は喋らない方がいいのかな……)」
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