「真琴さ、今日暇?」
講義が終わってすぐ、佳織が私にそう告げた。
今日……まぁ何もないかなぁ。
「うん。どうしたの?」
「あの、あのさ、真琴、実況?やってんじゃん」
「あ、うん」
「私の彼氏が真琴のファンらしくて」
え、と声が漏れる。
ふぁん?ファン!?
「何で!?」
「面白くて好きなんだって」
「何で私が佳織と知り合いってわかったの!?」
「彼氏が動画サイト見てて、あー友達実況?やってるよーって言って、色々話してるうちに」
いやまぁ一応2人には実況名言ってるけどさ!
佳織なんかは興味なさそうだし、すぐ忘れてるもんだと。
「今日彼氏休みだからさ。暇なら来てよ」
な、何でそうなるの!?
私どうすればいいのさ!?
がちゃり。
佳織が当たり前のようにマンションの鍵を開けて部屋に入る。
「冬真ー?」
薄暗い部屋に僅かな光が照っている。
部屋の中で、男の人がパソコンに向かってヘッドホンをして何かをしていた。
「冬真ー……またやってる」
佳織ははぁとため息を吐いて適当に座布団を敷いてくれた。
「少し待っててくれる?作業そんな長くないと思うから」
「あ、うん……」
わぁ、引きこもりさんなの?
いやでも、今日は彼氏さんが休みだからとか言ってたよね……仕事はしてるのか。
佳織の彼氏さんは小さく鼻歌を歌っている。
同じような音程を繰り返して、首をかしげていた。
何やってるんだろう。
ちらり。
気になって画面を覗く。
変なバーがいっぱい並んでいる。
なんじゃこりゃ。
パソコンのそばに転がっていたパッケージに目がいった。
それは、私も知っているキャラクターだった。
ボーカルアンドロイド「ウタちゃん」
スマ動画では有名だ。色んな人がウタちゃんを使った歌を公開している。
「歌作ってる人……!?」
「あー、そう。あと絵描いて動画作ってるらしいよ」
ボカPだけでなく動画師さん!?
すごい、見てみたい。
なんて人なんだろう!本名は使ってないだろうし……
ってことは今のこのバー、ウタちゃんの調教画面かな!?
こんな感じらしいし!
興味を持って覗いていたからスクリーンに写っていたようで。
佳織の彼氏さんは驚いたように振り返った。
「だっ、れ!?」
「冬真が好きって言ってた……えっと、何だっけ?」
「俺、好きなの佳織だけど、」
はいリア充ですね爆発してください。
私もえーちゃんに会いたいようくすんくすん。
「いやあの、実況?」
「初めまして、まーちゃむと申します」
おっさん声で挨拶してみる。
佳織に変な顔された、辛い。学校ではあまりやらないだけに思い切り変な顔された。
佳織の彼氏さん、冬真さんはまた驚いた顔をした。
「……何で!」
「会いたいって言ってたじゃんファンなんでしょ」
「言ったけども!」
あわあわと慌てる冬真さん。なんだか面白い。こんなこと言うのは失礼か。
「初めまして、いつも実況楽しく見させてもらってます!」
うわぁ、ここまで過剰に反応されると照れる。有名人でもなんでもないのに。
「地獄戦争の実況とか大好きです!俺もあのゲーム好きなんですけど、どうもまーちゃむさんみたいに上手くなれなくて……」
「あ、ありがとうございます!私なんて全然上手じゃないですよ!」
面と向かって感想言われるのもなんか恥ずかしい。年上?に敬語使われてるとか。
「ツイッターで絡んでるけど直接って結構緊張するもんだなぁ」
……ん?
ツイッターで絡んでる?相互の人?私相互以外には返信はするものの「絡む」というほどリプ返しまくったりしないし。
ボカPさんで絡む人、歌ってみたさせていただいてる方とかだよなぁ。誰だろう。
ていうかということは、私の好きな歌を作った人ってこと!?
佳織にコーヒーを渡される。あぁ、ありがとう気がきく彼女ね。
「つ、ツイッター名聞いても?」
控えめに尋ねると、あぁ、と思い出したような顔をした。
「トムです。いつも俺の曲歌ってくれてありがとうございます」
私、この人の曲ほぼ全部歌ってる。
この人の歌、独特で大好きで。曲がUPされるのをいつもいつも楽しみにしてる。
突然大好きなボカPさんが目の前に現れて今度は私が動揺した。
いや、とりあえずまず。
「トムさんの曲大好きですふざけて歌ってごめんなさぁぁあい!!!!」
「えっ、いえいえ寧ろ楽しく聞かせてもらってますよ」
セリフパートとかおっさん声でめっちゃふざけてる!ごめんなさい!土下座するしか……!
「ていうか佳織なんで教えてくれなかったの!」
私が「まーちゃむ」であることは言ってたくせに!
「え?聞かれなかったから」
そうですか!!
意外と周りにネットの知り合いいるものだね!私びっくりだよ!
「ついでに真琴の彼氏さんの会社の後輩だから、冬真」
「「はぁ!?」」
お次は冬真さんとはもった。
何でそんなこと知ってるんだ、佳織。
ま、まさか……まさかのえーちゃんが佳織と……浮気か!?
私の考えていることがわかったのか、佳織は呆れ顔を見せた。
「どっかの誰かがぶっ倒れた時に会社から私に電話きて、病院に運んでくれたのが彼氏さんだったの……なんだっけ苗字、綾瀬さん?」
「旦那さんって綾瀬先輩!?」
「佳織なんで教えてくれないの!」
「聞かれなかったから」
またそれか!!
私の周りじゃない。まっきーといいトムさんといい、えーちゃんの周りがすごい。
―お友達の彼氏さん―
(取りあえずファンだったのでサインもらっといた)
「ただいまー……真琴、そのサインどうしたの?てか誰の?」
「大好きな歌作ってる人に会ったからもらった!」
「おー良かったねぇ。……この癖字、後輩のに似てる」
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