ふたりのはなし。 | ナノ




晃くんと文香さんが結婚した。

文香さんの名字が桜橋になった。


いいなぁ、いいなぁ。

結婚式のビデオを確認しながら私は左右に揺れる。


誓いのキスを羨ましげに眺めた。


「いいなぁ」

「真琴、何回目さそれ」


えーちゃんが苦笑する。
だぁって、羨ましいんだもん。

そりゃあ、今現在既に同棲してますよ。
でも結婚はまた違うじゃん。
生涯を誓い合って、同じ名字になって、深い繋がりがあって。
法律的にも認められてる状態だよ?


「えーちゃん、綾瀬の名字ちょうだいよぉ」


彼にすり寄って、甘えてみる。

「うん、いいよ?」
「いいの!?」
「綾瀬真琴って名乗ればいいべ」

「それハンネ名乗ってるのと一緒じゃん!戸籍いれようよ!ちょうだいよ!」


私がえーちゃんの腕を掴んでがくがく揺らすとえーちゃんは逆らわずにがくがく揺れる。

結婚式のビデオを止めて、私の方を見た。


「あと3年とちょっとね」
「いーっ!」
「いーっ、じゃなくて。真琴は学業に専念して下サイ」


えーちゃんのけちんぼ、けち野郎。
頬を膨らませればつんつんとつつかれる。

えーちゃんは私なんか好きじゃないんだ!と拗ねてみせるとそんなことないよと優しく笑う。


何だよ笑って。
かっこいいなこの野郎。



誤魔化すように唇同士が触れる。

「ちゅーしたって誤魔化されません!結婚!結婚!」
「えー、しつこいな」
「しつこくない!」
「いやぁ真琴しつけぇよ」

あ、ちょっと言葉荒くなった。
きゅん。

私はMなんじゃないか。
まぁえーちゃんにならMになってもいいわ。


結婚式のDVDの再生が終わる。


「ん、問題なし。晃に渡してくるかぁ」

DVDをケースに入れてから袋にイン。


ん、とえーちゃんが手を伸ばしてくる。

「行くよ」
「私も行く前提なんだ」
「1人じゃ寂しいべや」


何それ可愛い。
寂しいのか。

えーちゃんの手を握って家を出た。

外は天気が良くって、風が心地いい。


気分が良くなって繋いだ手を大きく振りながら歩くとえーちゃんが笑った。


「あ、」

しばらく歩くとドレスショップが目に入った。

あ、と声を漏らしたえーちゃんは嫌そうな顔だ。
また結婚結婚うるさくなると思ったのだろう。


「嫌そうな顔されるならもう言いませんぷーん」


そう言いつつも私の視線はドレスショップに向いていた。
真っ白なウエディングドレスがガラス越しに輝いて見える。


「……パンフレットだけもらってく?」
「もらってく!!」

わぁい。

お店に入ってパンフレットをもらった。
歩きながら開くと色んな形のドレスがきらきら目に入った。


いいなぁ。
いいなぁぁあ。


「結婚……」
「したくないんじゃなくて、まだ待ってって言ってるの」

「何でぇ、学生だから?」
「そう。つーか、俺が妹馬鹿の兄と娘馬鹿な親父さんに殺されるから」

殺されるって……


「そうかな」
「そうだよ。お前、ちょいちょい2人から俺に手ぇ出すな、手ぇ出すなって呪いの電話来てるから。怖いよ」
「何それ怖いというかキモイ」


私の家族キモイ。


「学費出してもらってるし文句言えないでしょ?だから真琴が独り立ちするまで待ってんの」


ハァイ。独り立ち頑張ります。



「……とりあえず呪いフォン減らして貰えるよう親父さんに言ってくれ」

「お兄ちゃんには言わなくていいの?」
「大河は……また殴っとくからいいよ」


何そのバイオレンス友好関係怖い。

またって何。
何回目なの一体。
というか殴られてもやめないお兄ちゃんもお兄ちゃんだよね。

妹さんを僕に下さい(物理)なの。怖い。


「真琴のウエディングドレス姿早く見たいなぁ」





─結婚とかのはなし─
(結局独り立ちしてもお父さんとお兄ちゃんはうるさいと思うけど)





「何回お色直ししてもいいよ」
「金色のウエディング特注とか目立つんじゃない!?」
「式の主役だからそんなことしなくても1番目立つべ……!?」





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