ふたりのはなし。 | ナノ




「初めまして!ツバサでーす」

「はじめ、まして……?」

「あれぇ、不思議そうだねぇ」




スマ動画、公式生放送、開始まで後少し。



ハンドルネーム、声、ネット上の性格。
それだけを知っている人との、初顔合わせ。


初めまして、そう言った実況仲間のツバサさんは、

迷子の時にぶつかったお兄さんでした。




「あの時の……!」

「やぁっぱあれまーちゃむちゃんだったんだねぇ」

「わかったんですか!?」


私の言葉にツバサさんは笑った。


「街中でおっさんボイス披露、本名が真琴、あと声ね。なんとなくそうかなーと。つーか、俺は顔出ししてるし声でわからなかった?」



おっさんボイス聞かれてた……!

ていうか顔出しっていってもマスクにサングラスしてるじゃん!わからないよ!

声は聞いたことあるなー、と思ったけれど……
違和感はこれだったのか。



「まぁ、今日はよろしくねぇ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」



わぁぁ、緊張するなぁ。

ていうかツバサさんって画面越しから見るよりも身長高い。

歳は私のひとつ上、のはず。



人気実況者のツバサさんのファンの方がいっぱい見てるんだよねぇ、ディスられないかな大丈夫かな!?



私を見てツバサさんは笑い「気楽にやろーね」なんて言った。












1時間という短い時間はあっという間に終わりを告げた。


なんとか無事に終わった……!

暑苦しいマスクとサングラスを取って一息ついた。


おっさんじゃない、というコメント多かったなぁ。誠に遺憾である、真琴なだけに。
全然上手くない。




「お疲れさま」


「お疲れさまです!」


ひらりと振られた手にお辞儀する。


「はは、ツイッターみたいにバッサリ切ってくれてもいいのにぃ」




からからと明るく笑うツバサさん。

スタッフさんには礼儀正しいし、ちゃんとした人のようだ。



「い、いやぁ、緊張しますよー!」

「俺がイケメンだからかな?」

「あ、イケメンには慣れてるのでそこは大丈夫です」

「何それ」


楽しそうに目の前の金髪が揺れる。



イケメンコワイ病は持ってないんだ。
周りにイケメンいるから。


えーちゃんとか晃くんとかえーちゃんとかまぁお兄ちゃんも一応イケメン寄りかな一応ギリギリつまりフツメン、あとえーちゃんとかね。

つまりえーちゃんだよ。
イケメン。



「そうだ、駅まで送るよ」

「あ、いえ、大丈夫です……!」

「女の子1人でいかせるのはちょっとねぇ?」


何だか申し訳ないし。



「あと、ケータイの番号教えてよ」



肩をがしりと抱かれる。

ううん、こういうのヤダなぁ。
邪険にもできないし。



朝えーちゃんにここ来ること言っといたけど、たぶん迎えには来てくれないだろうなぁ。

今日も仕事だし。
社蓄に定時なんてないのだ。



建物の玄関をそのまま出た。


う、振り払いたい。

女好きはキャラじゃなくてマジモンですか。
おっさん女子にまで……見境ないな。
いや、声がおっさんってだけだよ!?




「真琴」




聞き慣れた声が、私を呼ぶ。

あれ、なんで。




「えーちゃん!?」

仕事は、なんて言うと無理に終わらせてきた、と言った。


有名なドーナツ店の袋を2つ持っていた。



「なんで、ここに」

「朝、住所聞いといたろ」



いや、そうだけど。


「ずっと待ってたの?」

「いんや、晃が生放送?見てたらしいから終わるタイミング聞いた」


晃くんェ……
意外と見てますよね、あなた。
私の放送。

投稿動画のネタでいじられることもあるし。



身内に見られるの結構恥ずかしいんだけれども。
いや、嬉しいけどさ!



えーちゃんはツバサさんの手をびしりとチョップして私の腕を引っ張った。



袋から紙袋を出して、ツバサさんの目の前にずいと差し出す。



「真琴が世話になりました。良かったらドウゾ」



「あ、え?あ、ありがとうございます」




えーちゃん何か怒ってる?
ヤキモチ?ヤキモチなの?もっちもちなの?



ツバサさんは戸惑った顔を笑顔に変えて、私を見た。



「噂の旦那様かぁー、旦那様社会人なの?何歳離れてんの?」


「6、離れてます」



歳をとるたびに気にしなくなるんだろうけど、まだまだ気になる歳の差。
まぁ私自身は気にしてませんけどね!



ツバサさんは、ふぅん、と目を細めた。



「それじゃあ、電車の時間もあるので失礼します」



えーちゃんが礼をするとツバサさんも合わせて礼をした。




「はぁい、またねーまーちゃむちゃん」

ひらり、と私に向かって手を振る。




えーちゃんは私の腕を強く引いて、歩いていく。



「えーちゃん、怒ってる?」
 


無言なのは肯定なのだろうか。

うーん、生放送とかは出ない方がいいのかな。



「怒ってないけど、少しくらい警戒して欲しい」


落ち着いた口調で、前を向いたままそう言った。


女の子なんだから、その言葉は何だか心配そうで。




「大丈夫だよ?」


「俺が心配だから」




デレきました、ありがとうございます。

ツンデレじゃないからデレが珍しい訳でもないけどね。




ふと近付いてきた顔。

唇同士が重なった。



「……ほら、警戒ぜーんぜんしてない」


えーちゃんはいつでもウェルカムだから警戒なんてしませんよ?



そう言うようにニンマリ笑うと何だか呆れた顔をされた。



「ちゃんと迎えに行くからさ、ちゃんと教えてね、何かに参加するときは」




そういえば仕事も無理やり終わらせてきたみたいだし。

何だかんだ優しいし心配性だし甘いよね。






─旦那様とツバサさん─
(えーちゃんはどうやらツバサさんを敵とみなしたようで。)






「少なくともあの金髪くんがいるときは絶対連絡して」
「そこまで警戒しなくていいと思う」





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