ふたりのはなし。 | ナノ




せっかくの休みなのに。



目を覚まして、上半身を起こして。



ぼーっとしながら意味もなく前を見つめた。



朝早く起きて、会社に行って、夜に帰ってきて、寝る。


身についた習慣は休日ですら寝させようとしてくれないらしい。


頭をかく。
触って分かるほど寝癖が酷くて何だか笑えた。



……寝よう。もう一度。
二度寝は休日の醍醐味だろう。


体を布団に沈めようとすると、左側から衝撃が走った。

痛い。




そちらの方を見ると、爆睡する真琴の姿があった。


相も変わらず寝相が悪い。

というか、いつの間に人の部屋のベッドに潜り込んできていたのか。



ぐう、と自分のお腹が鳴って押さえ込む。
腹が減った。


「真琴、ご飯」



起こそうと思って軽く触れてから、やっぱり起こすのは悪いか、なんて。
幸せそうに寝ているその子を見ながら考えた。



いーや、自分で作るべ。


あくびを漏らして、布団から体を出す。



大分暖かくなってきて、朝も冷え込まなくなってきた。


ここからが地獄だ。
たぶん、真琴にとっての。


夏。
あっちでも暑い暑いと嘆いていた少女は暑さに弱い。
こっちはかなりしんどいぞ、人口もすごいし。



小さめの鍋を取り出して、味噌汁を作り始めた。




目覚のコーヒー……といきたいところだが、コーヒーはあまり好きじゃない。

ココアにしよう。
コーヒーとココアって似てるよな、なんとなく。
苦いのと甘いのだけど。


牛乳を温めつつ味噌汁作り。



朝どうするべ、ベーコンエッグとかでいいか、面倒くさいから。

米は炊けてある。



それなら真琴を起こしてから作るか。

あ、サラダ。
色々野菜あるしちょっと見栄えよく作るか。


真琴は食パンの方がいいって言うっけ、いつも。




まず、起こすか。


牛乳の入った鍋に蓋をして、俺は一旦部屋に戻る。

まだ彼女は幸せそうに寝ていた。




「真琴ー、飯だぞ」


全然起きそうにねぇ。
鼻を摘まんでみる。
いや、起きねぇわ。



ベッドに腰を下ろして、真琴を見下ろす。



ゆっくりと顔を近付けて、そのままキスをした。



ん、と声を上げて眠たげに目が開いた。



おお、起きた。




「お姫様は王子様のキスで目が覚めるってか」

俺は王子様って柄じゃないけれど。



え?と言いながら一気に覚醒する真琴。


「え?わんもあ、わんもあぷりーず!」

「のーせんきゅー。真琴、パンと米どっち」

「えええ。パン」

「コーヒーオアココア」

「えーちゃんと同じ方!」



はい、ビンゴ。

パンは焼いたし、牛乳も多めに温めた。


真琴に着替えておいで、なんて声をかけて作り始めた。
といってもたかがベーコンエッグだけど。




真琴がリビングに来る頃には出来上がっていて、テーブルに並べる。



「「いただきます」」




手を合わせて、箸を手に持つ。


真琴は味噌汁を口にして幸せそうに顔を綻ばせる。



「私、えーちゃんの味噌汁大好き」

うん、そう言われると嬉しい。

はいありがと、なんて軽く言うけどね。


は、と思いついたような顔をして俺を真っ直ぐと見た。





「毎日あなたの味噌汁が飲みたいです!!」



一昔前のプロポーズの言葉。

「は?やだよ」



俺の言葉に真琴はショックそうな顔をする。

え、何で。
そんなに飲みたいの?



「毎日作ったら俺が真琴の作った味噌汁を飲めない」



真琴の料理、好きなんだけど。





─おはようございます。─
(味噌汁作りは交代制でどうでしょう)





じゃあ交代で作ろうね、だなんて真琴の言葉で、同じことを考えてるなって思わず笑った。





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