大好きなゲームシリーズのサウンドトラックをBGMにする。
パソコンに接続されたマイクに声を向けていた。
さっきまではフリーのパソコンホラーゲームを実況していたけれど、疲れたので雑談を始めていた。
生放送中でございます。
「いやぁ、このBGMいいですよねー」
のんびりと意味のないことを喋る。
流れるコメントは賛同の言葉だらけ。
「これはゲーム本編も神」と言葉が流れて意味もなく私は頷いた。
「わしゃあ、このゲームが……20年前から大好きでのぅ」
おじいちゃんみたいな声でそう言えばたくさんの「w」をいただきました。
『まーちゃむ何歳だよwww』
『このゲームシリーズの初作は5年前だよ?w』
『まーちゃむ大学生だろw何年留年してんwww』
突っ込み素晴らしいわぁ。
コメントを見て笑って、頬杖を付いた。
「これの実況でもしますかねぇ」
私の言葉に「お」「見たい」というコメント……だけでなく「??」「え?」という不思議そうなコメントが映る。
あれ、変なこと言った?
『まーちゃむ風邪?』
『男らしいくしゃみだな』
……んん?
くしゃみなんて私、してないんだけれど。
『やっぱりまーちゃむ男疑惑www』
『くしゃみ』
何何々?
私男疑惑、じゃなくて。
振り返ると同時に、抱きついてきたのはえーちゃん。
びっくりして、素で叫んでしまった。
さながらホラーゲーム中のドッキリだ。
「あ、悪い……薬」
「す、すみません!マイク一旦切ります!」
マイクに向かってそう叫ぶ。
『えー』というコメントが見えたけど気にしない。
やってしまったよ。
えーちゃんの声入ってしまったよ。
「マイク?」
「お気になさらず!!どうしたの?仕事は?」
「終わったよ……咳止まらないの。風邪薬、ない?」
こほこほと咳をしながらえーちゃんが言葉を必死に紡ぐ。
「薬なら、リビングの電話置いてある棚に入ってたと思うけど……」
そういうとふらふらとえーちゃんが部屋から出て行った。
大丈夫、じゃないよなぁ。
放送ももう時間終わるし延長しないでおこう。
マイクをつけてお待たせしましたと言うとコメントで溢れる。
『大丈夫かー?』
『さっきの旦那様?旦那様はよ』
「そうそう、旦那様が風邪みたいなので今日の放送はここまででーす」
お大事に、なんて言葉が流れてくる。
あぁ、優しいなぁ。
「ではでは、まったねー!」
明るくそういって、終了ボタンを押そうとしたときにドアが開く音が聞こえた。
さっきはBGMに集中してたから聞こえなかったけど、消した今だからわかる。
「薬ないんだけど、真琴……」
ぷちり。
あ、遅かったかも。
名前、入っちゃったかも。
本名明かしちゃったかもしれない、まずい。
「えええ、ちょ、ちょっと待ってて」
動揺を隠しつつリビングへと向かった。
─放送事故─
(リスナーさんはやっぱり優しいなぁ)
【俺そっち側行く予定あるから風邪薬買ってくか?:晃】
【え?放送見てたの?私本名出ちゃった?:真琴】
【見てた。ま、で放送終わったからギリギリセーフじゃね?:晃】
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