【10時までには帰る:瑛太】
温かいご飯を前に、鳴ったケータイを開くとそんなメールが届いた。
あらら、残業ですか。
了解したという内容を返してご飯にラップをかけて片づける。
仕方ない、帰ってきたときにオーブンで温めよう。
えーちゃん最近残業多いなぁ。
体調大丈夫かな?
テレビでも見て時間をつぶそう。
そして度々来るメール。
【今日中には帰りたい:瑛太】
【今日中に帰れねぇわ:瑛太】
「帰りたい」って。
最早願望じゃないかそれ……
えーちゃん……
結局叶わずだし。
時間は10時を過ぎたぐらい。
私はぼっちで寂しくゲームプレイ中。
【先寝てて:瑛太】
【大丈夫?:真琴】
大丈夫、と。
休憩終わった。
仕事やるわ、の3言。
本当に大丈夫?
とりあえず布団に潜って寝ることにした。
……けど、やっぱり待ってた方がいいかも。
えーちゃんご飯ちゃんと食べるかな。
お風呂入るかな。
そのままベッドに倒れ込んで寝そうなんだけど。
明日スーツしわくちゃになってそう。
がば、と、布団から起きあがる。
まだ帰ってこないだろうな。
〈まーちゃむ:旦那様が仕事残業で帰ってきたとき何したらいいかな?〉
ツイッターで呟くと色々アイディアがリプライで送られてくる。
おい。
おっさんボイスで「おかえりあなた」って言うって何だよ。
しかもそれ大量にきてるよ、やめてよ。
なんていう罰ゲームだよ。
私がやられたら引くよ。
うーん、やっぱりご飯準備しておく、が多いかな。
もう準備できてるんだけどね。
〈a@まーちゃむ:とりあえず「おかえり、お疲れ様」ってもらえれば幸せじゃない?〉
そんなリプライがあって。
あぁ、それでいいのかな。
下手に疲れてるときに変な子としても負担になっちゃうかな?
時計を見てみると、日付が変わるところだ。
何時に帰ってくるんだろ。
ぼぅっとそう考えたら、玄関が開く音が聞こえた。
玄関に向かい、顔を覗かせるとえーちゃんが驚いたような表情を見せた。
「まだ起きてたの」
「おかえりえーちゃん!」
「……ただいま」
眠たそうに、目を擦って笑う。
心なしか顔は疲れていて、スーツもそれに合わせるかのようによれよれに見えた。
スーツはよれよれじゃないんだけど。
「ご飯温めるから、先にお風呂入ってきなよ」
「……ん」
えーちゃんは立ったまま寝始めた。
なんて器用なんでしょう。
いや、寝ないでよ。
「えーちゃん?少し頑張って。ご飯いらない?」
「いる……」
「お風呂」
「明日の、朝」
じゃあ、急いで温めてこようご飯。
キッチンに向かおうとするとえーちゃんに腕を引っ張られ、ぎゅうと抱き締められた。
わぁお。
急に何なのだね。
「なぁに、どうしたの?」
「……真琴分補給してるの」
私が歩くとそれについてくるように歩く。
ぎゅうと抱きついたまま離れない。
眠いのか、頭をすりすりと寄せてきた。
真琴分って何なの。新しい栄養分なの?
えーちゃんにだけ存在する栄養分なの?
可愛いな、何なんだ可愛い。
年上のくせにぃ!キュンキュンするわ!!
夕飯を温めながら片手でツイッターを開く。
夜中なのに人がたくさんいる。
まぁみなさん元気ですこと。
〈まーちゃむ:旦那様が可愛すぎる件〉
〈ツバサ@まーちゃむ:は?〉
〈まっきー@まーちゃむ:リア充乙でーす〉
仲良しな実況者さんの反応が早い、そして冷たい。
ツイッターを閉じて夕飯をよそう頃にはえーちゃんは人の肩で寝始めていた。
─社畜戦隊旦那様─
(彼の特技はとにかくどこでも寝ることです)
「いい匂いがする……」
「あ、起きた」
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