恋人のイエスマン2
「お疲れ、相模」
「浜崎は?」
「雄大は仕事」
「あいつも要領悪いよな」
相模が馬鹿にしたように笑う。
相模は雄大と正反対で要領が良い。
上司がすべき余計な仕事はさらっとかわせるし、雄大は少しだけでも相模を見習うべきである。
必要以上働きませんって感じ。でも少しは多めに働いて、私たちに回ってくるから。
相模がパンを口に運びながらテレビに目を向ける。
食べ終わっても背もたれに背を預けながら、代わり映えのないニュースに目を向けていた。
「仕事に戻ったら?」
「まだ昼休みですからー」
「そうだけど」
「休息も大事だろ。休み削って働くなんて馬鹿なこと、するかよ」
全社畜を敵に回す発言ですけどそれ。
やる気なし相模、それを雄大にも言ってあげてくれる?
休息は大事だってとこね。
食べ終わった弁当をしまって私もテレビに目を向ける。
ニュースからお昼のワイドショーに変わっていて、人気な芸能人がつらつらと軽快なトークを繰り広げていくそれを内容を覚える気もなく流していく。
あっという間に昼休みは終わって、私たちは仕事に戻るべく休憩室をあとにした。
午後の仕事を進めていく。
相模は取引があるだとか外出して、きっちり予定時間通り帰社してくる。
雄大は相変わらずパソコンと睨めっこ。
置かれたままのお弁当はきっとまだ開けられてすらいないのだろう。
終業時間になって仕事の終わった人間は帰宅していく。
隣の相模なんてさっさと帰宅した。
人が減って静かになっていく中、私は自分で定めたノルマを満たしたのでパソコンの電源を切る。
「お疲れ様でーす」
私の言葉に部長が近付いてきて、夕食でもどうかと誘ってくる。
「あー……私、今日浜崎くんと夕食に行く予定あるんです。また今度誘ってくださいますか?」
作り笑顔で雄大を手で示す。
「……あぇ?」
自分の名前が出た雄大は驚いたのか間抜けな声を出した。
「ね、浜崎くん。私と夕食に行きますよね?」
目をぱちぱち瞬かせて雄大は「あ、はい」ととりあえずイエスを口にする。
部長と食事あまり行きたくないんだよね。
同じ課の陰口とか言い出すしやめてください。
雄大の悪口言いやがったときには殴りかかろうかと思った。
誰があんたの仕事をやってると思ってんだコラ、って。
取り敢えずパソコンを切った雄大が上着を身につけた。
部長にお疲れ様ですと告げて雄大を引っ張って会社を出る。
「ごめんね」
「んー、良いけど別に。マジでどっか食ってく?」
「行きたいとこもお金もありませんがな」
雄大の家は、材料全然なかったな。
スーパーでも寄って何か買ってこうかな。
……お金ないんだってば。
時間的にまだおろせるだろうか。
微妙だ。
私の家は来てもらうには遠いしなぁ。
引っ越してこようかな、そろそろ。
「あー、じゃあ最近できたラーメン屋そこにあるんだけど行かない?奢るし」
「奢ってもらうの悪いわ」
は、お金ないとか奢れアピールみたいになったかもしれない!
そんなつもりなかったんだけど。
「じゃあ弁当のお礼……彼女をディナーに誘うのにラーメン屋ってムードもクソもないな」
雄大は苦笑して隣をゆっくり歩く。
身長差があるから歩幅だってだいぶ違うのに、彼は私に合わせてゆっくり歩いている。
お弁当……あんなの対したものじゃないのに。
普通の女子だったら反感買ったかもね。
私はラーメン好きだから嬉しいけど。
カッコづいた店に行く気分でもないし。
まぁ、ラーメンだったら大した値段じゃないだろうし、お言葉に甘えて奢ってもらおうかな。
「じゃあねー、チャーシュー多めにつけてもらお」
「俺もー」
ラーメン屋につくまでしばらく、ラーメンといえば何かで話し合う。
雄大は塩派か。
私は味噌だ。
暗くなった街並みで存在を主張するようにライトが看板を照らしている。
そんなラーメン屋ののれんをくぐって、空いている席に座ってラーメンを注文した。
温かいラーメンが目の前に置かれる。
チャーシューのいっぱい乗った味噌ラーメン。
「ん、おいしい」
「塩一口頂戴」
「ほいほい」
2人でラーメンを啜ってほっこり暖まった。
食べ終わって店を出る。
「御馳走様」
「ここ美味しかったね」
「うん、また来ようね」
「ね」
雄大が駅まで送ってくれて、改札口で別れる。
電車が来るまでまだ時間がある。
嘘に付き合わせた挙げ句奢ってもらった。なんだか悪いな。
またお弁当作っていこう。そう考えて私は白い息を吐き出して目を細めた。
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