愛欲少女4

まぁ、服かなんか取りに来ただけなんだろうな。




お兄ちゃんが私と拓海を交互に見て笑う。
まるで、馬鹿にするかのような、呆れたような笑み。




「仲良しだなぁ、お前たちは」



微笑ましいようなセリフは、表情と一致していなかった。

だるそうにソファへ深く腰掛けたお兄ちゃんをじっと見る。



「うん、仲良いよ」



拓海がへにょと笑ってそう言った。


そう。
お兄ちゃんはそう言って目を細める。


思い出したように拓海がリビングから出て行こうとする。

「いお兄に見せたいものあるんだよね」



そう嬉しそうに言って、家を後にした。



「……コーヒー飲む?」
「僕コーヒー飲めないんだよねー」

へらりと作ったような笑顔。 


……やっぱり私は。

「あぁ、飛鳥。あまり拓海に構わない方がいいと思うけど」

私は、この人が苦手だ。

「……お茶持ってくる」


わかっているんだ。

私に依存しているような拓海。
彼は、子供のままで。
恋愛ができないなんて、可哀想だ。

悪いのは、好きでもないのに引き留めている、私。




冷蔵庫に入っていたペットボトルからお茶をコップに移した。




リビングに戻るとお兄ちゃんは大きめのカバンに物を詰めていた。
あ、やっぱり物取りに来てたのか。


「帰るの?」
「帰るよ」


コップを渡すとお兄ちゃんは一気に飲み干した。

……妹の私が言うのは贔屓目が入ってるかもしれないけれど、カッコいいんだよなぁ、そこそこ。

色っぽいというかエロいとうか?
兄に向かって何言ってんだ。




私が言うのもなんだけど、私とお兄ちゃんは似ている。見た目ではなく、性格面で。

実際に場面を見たわけではないから何ともいえないけれど、おそらく似ているのだ。



「ねぇ、お兄ちゃん。好きな人とか、いる?」



ほんの少しの興味本位だった。


いないんだろうって、思った。




たくさん愛されたくて、1人を愛せないのは私だけじゃないって、安心したかったのかもしれない。



「いるよ」



真面目な顔でそう言ったお兄ちゃん。

綺麗な瞳から目を離せなかった。




「僕が好きなのは……飛鳥」


本気のような、瞳で。


私の頬に触れて優しく笑う。



「な、に言って……」

「気持ち悪いよね、わかってる」


なんなんだこの急展開。


冗談かと思えば、真面目な顔。
切なげな、お兄ちゃんの顔。



恋愛小説にありそうな、禁断の恋愛ってやつですか……?



「それでも、好きだよ」


そういって、顔を近づける。



ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って。



頭がついていかないから。



助けて拓海。


するりと私の持っていたグラスが床に落ちて音をたてて割れた。



唇同士がふれあいそうな距離で、お兄ちゃんの表情が一変した。






「――いや、拒否しろよ」

「はっ?」


おえ。
舌をべっと出してお兄ちゃんが私から離れた。



「え?なに?もしかして『アリかなー』とか思ったわけ?」

「んなわけっ……ないっ!」


頭がついていかなかっただけだ。




「親近相姦とかキモチワル」
あんたが自分でやり始めたんだろうが。


兄は演技派でした……それも高レベルの。



鼻で笑ってグラスに手をかけた。



「怪我するよ」

「飛鳥じゃないんだからそんなミスしない」


丁寧に素早くグラスを拾い上げていく。
いや、ミスとかじゃなく怪我するんだって。



「……なんか、大きな音が」


拓海がひょこりと現れた。

グラス落とした、と笑うと心配そうに私をみつめた。





「……いてっ!」


ほら、切ったじゃんお兄ちゃんの馬鹿。

「いお兄大丈夫?」

拓海がひょこひょこ歩いてお兄ちゃんに近寄った。



「んー大丈夫大丈夫。拓海、僕に見せたかった物ってなに?」

「レアカード!」


拓海が自慢げに出したのは。
私たちが数年前にはまっていたトレーディングカードゲームの、レアカード。
……いつのなのそれ。


「ふぅん、すごいじゃーん」

絶対くだらないって思ってるよね。


「ほら、キャラ名が『イオリ』なの。いお兄と同じ名前。すごい」
「そのキャラ女なんだけど僕に喧嘩売ってる?」
「売ってない」

グラスの破片を片付け終わったお兄ちゃんが「じゃあ僕は行くね」とリビングから出ようとする。




「ちょっと待って。そんな適当に絆創膏貼っただけじゃ……」

けっこう深く切ったっぽいのに処置が適当だ。
1人暮らし大丈夫?ちゃんとできてるの?



「んーん、これでいいの」


にっこり。
楽しそうに笑うお兄ちゃん。

何が良いんだ、血が止まってないよ。




「心配させるのも楽しそうだし、彼女」

「え?彼女……?」

「いないとは一言も、いってない」



好きな人、いるんですか。

というか心配させるの楽しいとか性格悪いな本当に。



お兄ちゃんは私を見て妖しく笑って、拓海に何かを言った。
声が小さくてなんて言ったのかはわからない。



「じゃあ僕はこれからデートなのでさよーならー」


ニヤニヤと気持ちが読み取れない笑みを見せる。




……つかみ所のないところ、本当苦手だわぁ。
彼女さん、可哀想。



ケータイからのメッセージ通知。

……環からだ。



「あいつから?」



私をじっと見てそう言った。

あいつ……うん、たぶん、合ってるよ。



メッセージに返信しない私を見て拓海が口を再び開いた。

「どっか行くの」
また、どっか行っちゃうの。


子供のような呟き。



行くつもりはないけれど。
とても行く気分にはならないのだけれど。


「……うん、そうだね」



拓海の顔を見ないでそう言った。


「拓海、もう私は拓海の側にはいないから」



突き放さなきゃ。
突き放して、あげなきゃ。


「帰ってよ」

もう一緒に寝ない。
依存にさよならをしよう。


渋る拓海を半ば強制的に帰して私は自分の部屋に戻った。




全然使っていなかったベッドに体を埋める。


1人で寝るのは何年ぶりなのだろう。




「寒い」



何だか無性に、寒く感じた。






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