愛欲少女3

うっかりしていたんだ。

うとうと、してて。
それで……



「お、はよ……」



寝てしまった。
名前もよく知らない、男の家で。


珍しいな、だなんて。
そんな場合じゃないよ。



……拓海。

ケータイは電源が切れていた。

充電、なくなったんだ。



急いで着替えて、荷物を鞄に詰め込んだ。

男に適当に礼を言って外へと出た。



朝はまだ、肌寒いな。

家に帰る時間もない。

そのまま学校へ行こう。



急いだ足取りで学校へ向かう。



拓海、拓海、拓海。
大丈夫だろうか。



大きな音を立てて教室のドアを開ける。

教室内は騒がしくて、視線をこちらに向ける人間などいなかった。




窓側に目を向けると死んだような目でどこを見ているかもわからない拓海が目に映る。

あぁ、やっぱり。


拓海、寝れていない。




「飛鳥がいないと寝れない」
彼はいつもそう言っていたのに。
私は、彼の抱き枕なのに。


「た……」


彼に声をかけようとするとわざとかというほどのナイスタイミングで担任が教室に入ってきた。


全員が席に着いたのを確認してつらつらと連絡を連ねていく。




「……観月ー大丈夫か?」




ホームルーム途中にとうとう突っ伏してしまった拓海を担任は心配そうにながめた。

普段真面目だとこういう所得だよね。


私だったら「寝てんじゃねーぞ」って言われるし。



ぷるぷると猫っ毛を横に振った。
どうやら大丈夫ではないらしい。


「保健室行っとけ。保健委員はー……」
「飛鳥」


いいえ、私は保健委員ではありません。


「六道、だったか?……まぁいいか、六道、観月保健室に連れてってやれ」

「はぁい」



ふらふらとする拓海を支えて私は保健室へと歩き出した。




「ついた」

誰もいないが、まぁいいか。



「拓海、寝てなよ」

1日徹夜で情けない。
なんて、言わないけど。



虚ろな瞳で拓海は私を見た。



「飛鳥の馬鹿」

「はいはい、ごめんなさい」


私が悪うござんした。


私にぎゅうと抱きついて、息を整え始める。
ベッドで寝なさい。


すやすや。
拓海は寝る。
私は寝転がる気分ではなかった、拓海には悪いけど。

「……」


ベッドに座りこむ。

うん、こっちの方が楽。




突き放したくはない、けれど。

一生このまま、ともできないのではないだろうか?


きっと、拓海にも好きな人ができる。

そうしたら、抱き枕がどうのとか言ってられない。
……相手の女の子が抱き枕になるのか。
重い、それは重いぞ拓海。




「拓海、」


寝ている彼の髪を撫でた。
ふわふわだ。

「……飛鳥、」

寝言のように彼はつぶやく。

ふにゃふにゃ。
幸せな夢でも見ているのだろうか?



「なぁに、拓海」

私も笑う。
返事が帰ってこないのはわかっているけれど。




いつも置いてけぼりにしているのは私のくせに、
置いて行かれるのが怖い。


……なぁんて、口には出さない。







放課後。

「飛鳥ぁー」

環が手を振りながら私の元へ。
今日うち来る?なんてお誘い。



「……んー今日はいいや」


昨日の今日だし。
拓海放置したくないし。

「……つまんねーの」

冷めた表情で環がそう呟いた。



「また今度ね。じゃあね」

手を振って家へと向かう。




靴をはきかえて外へ。
風を受けて髪が抵抗せずになびく。


「飛鳥ー」




気だるげな声で私を呼ぶ拓海。

ひょこひょこと私の横に並んだ。


「今日は一緒に帰って良い?」

「あー、うん」


今日は真っ直ぐ帰りますよ。


くだらない話を交わして、家まで帰る。
そうだなぁ、今日は早いし拓海の家でゲームでもしようかな?


「拓海、ゲームしよ」

「うん、いいよ」


じゃあ、すぐ行くね。
そういって鞄に手を突っ込みながらドアノブに手をかけた。



……あれ?

「ドア、開いてる……」


鍵を探していた手を止める。
おかしい、私は昨日から帰ってないし……昨日でたときには鍵はちゃんと閉めたのだ。


私の言葉に反応した拓海が私をドアの前からよけてドアに手をかける。



両親はこんな時間に帰ってこないし……泥棒?


ドアを開ければリビングの方からがたん、がたんと音がする。

……うちに入ったところで何もないよ泥棒さん。



拓海が静かに家の中を進んでリビングを目指す。



えっ、ちょ、何をするつもり?

リビングに素早く入った拓海。
瞬間、何かを倒したのか……というか泥棒を倒したのだろう。
鈍い音が響く。

拓海、危ないよ。

ケータイを探しながらリビングに向かう。
警察に連絡……!



番号を押しかけたとき、目に入った光景に手を止める。





「ごめん飛鳥」
「いきなりなんだよ痛ぇよ!」


「……お兄ちゃん?」

拓海によって床に伏せているのはお兄ちゃん。


「いお兄だった……っぽい」

「ぽいってなんだよ、ぽいって」

「拓海とお兄ちゃん全然会ってないからじゃない?」

いや、私も全然会ってないんだけどさ。



拓海がどけるとお兄ちゃんは不服そうに「痛い」と言いながら起き上がった。


「何で帰ってきたの?」
「実家に帰って来ちゃ悪いの?」

何で疑問で返してくるんだこの人は。






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