「……何でもないよ」
ごめん、忘れて。
相川先輩はまた笑顔で、呟く。泣き出しそうな、笑顔で。
「何言ってんだろ、俺」
くる、と高跳びのバーへと視線を移した。
私じゃ到底跳べそうにない、高い高い位置にある棒。
先輩はそれを一心に見つめて息を深く吐き出した。
いとも、軽く。
先輩はバーの上を跳ぶ。
それはやっぱり、綺麗で。
とても、綺麗で。
私は、この。
へらへらした王子様じゃない。
モデルの仕事をしているかっこいいそれじゃない。
この先輩が大好きなんだって、思った。
私は、そう。
この“相川先輩”に、恋をしているんだ。
(act4. end)
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