私が彼の名前を呼ぶと、先輩はがっくしと肩を落としてだるそうな立ち方へと変化する。
「あのさ、今俺跳ぼうとしてたよね?」
「……あ、すみません」
「ていうか、何。学校でもないのに、まじストーカー?」
……ここまでくるとストーカー、だよね?やばいじゃん私。
溜め息を吐いた相川先輩は私の方を見た。
何、とつまらなさそうに相川先輩は私をじっと見る。
話、聞いてくれるんだ。
「……楽しそうでしたね」
「何が」
「今日、撮影」
「そうかな」
相川先輩は静かに笑う。それはいつもみたいな嘲笑なんかじゃなくて。
優しい、笑顔だった。
オレンジ色の夕日に照らされた相川先輩は何だか綺麗に見える。
頬を染めているようにも見えた。実際に染めてるわけじゃないけれど。
「……ねぇ、」
ぽつりと脈絡もなく吐き出された言葉。
相川先輩から話しかけてくれることなんてないから、驚いた。私は彼の言葉に集中する。
誰もいない運動場に、やけに響いているような感覚があった。
「例えばさ、俺が犯罪者の子供だって言ったら、どうする?」
「……え?」
目を伏せた先輩は、泣き出しそうにも見えた。
何か、救いを。救いを求めているようにも、見えたのだ。
相川先輩がその場で足を少しだけ動かした。ざり、と砂利が音を立てる。
視線が、私の方に向く。今にも泣き出しそうな、「助けて」と言い出しそうな瞳に、どくりと心が疼く。
相川先輩は、また、視線を下げる。
犯罪者。
殺人犯、窃盗犯、放火魔、轢き逃げ。とにかくたくさん。
犯罪者。
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