佐々木先輩はいない。今日は用事があるとかで帰ったようだ。
「スカウトされて、俺なんかで良ければ力になりたい……とでも言えばいいかな?」
嘘くさいしそもそも最後の言葉からして嘘でしょ。
相川先輩はバーを見据える。
私の姿なんか、映っていないのだろう。
助走を始めて、高い高いバーを飛び越えた。
ぼふ、と分厚いマットの上に落ちて、しばらく空を見上げていた。
私もゆっくりと空を見上げる。
雨の降った後の、澄み切った青空。
相川先輩がバーの高さを調整して戻ってきた。
「で、結局どうなんですか?」
「君に言う必要あるの? 何? どうしてそんなこと聞くの? 俺に興味でもあんの?」
「女嫌い、みたいな先輩が何で女の子に媚びるようなことをするのかなと」
媚びる、という言い方は悪いな。
でも、そうじゃん。
女の人に気持ち悪い、とか言う先輩が何で雑誌モデルやってるのか。
ただの、好奇心。
「金だろ、金金」
……ですよねー。
そこらのバイトするよりは稼げるだろうし、人気があればね。
「暗くなる前に帰ってくれる? 面倒くさいから」
王子様フェイスでなんてことを。
「……お疲れ様でしたー」
まぁいいや、帰ろう。
1人じゃタイム計測もできないし。
「お疲れ様デシタ」
形式的な言葉が返ってきた。
私はジャージのまま帰路についた。
バスに乗り込んでから、外を見ると。
澄み切っていたはずの空から、雨が、静かに降り地面を濡らしていた。
(act3. end)
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