裁きの国のアリス
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 しく、しく。
 暗闇の中でぽつぽつとひとりぽっちで泣いていた。
 白い少女が泣いていた。


「僕ばかり苦しい僕ばかり悲しい僕ばかり失う僕ばかり僕ばかり僕ばかり僕ばかり僕ばかり僕ばかり」


 少女の目には暗闇しか映らない。
 白いツインテールを揺らして透明の雫をぽたりぽたりと落としていく。


「――アリスが悪いんだ」

 全部、全部、全部。
 世界を壊した“アリス”が悪いんだ。


 クイーンを殺して。
 初めてのゲームに戸惑って死んで。
 逃げ回る中眠りねずみに殺されて。
 足を滑らせて溺死して。
 ハンプティ・ダンプティに心臓を奪われて。
 三月兎に撃ち殺されて。
 小さくなったら瓶に閉じ込められて干からびて。
 騙されいかれ帽子屋に食べられて。
 途中でとち狂って自殺して。
 とある人間と恋をして。
“ゲーム”をクリアした。

 ――“アリス”が僕の世界を壊した。


 許さない。
 許さないゆるさないユルサナイ。

「ふっ、ふひ、ふヒヒヒ、いひひははは」


 少女は狂った笑いを漏らす。
 それは少女しかいない空間に虚しく響く。
 そこにはエニグマもいない。彼女は白兎の前に姿を現さない。


 殺す殺す殺す殺すコロスアリスをコロス僕は僕は僕は僕の僕がアリスを。



 ――カツン。
 白兎以外誰もいないはずの空間に、靴音が響いた。
 それは確かに、少女に近付いてくる。


「……ねぇ、白兎」

 現れた少年は、少女ににっこり笑いかける。


「俺と友達にならないかい?」
「誰?」

「……そうだね、俺のことは“悪夢”とでも呼んでくれればいいよ」


 少年、悪夢は優しく笑った。


「そう、そう。俺と友達になって、そして――アリス殺しゲームを、しようじゃないか」







そうして悪夢は、
何度も何度も繰り返されるのだ。




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