3-2:そばにいる[ 12/18 ]
「ち、ちなー。玲がいつも以上に怖い」
なんだかいつも怖いような言い方になってしまった。
うん、でも時折怖いしね、彼。
「溝渕は華が心配なんでしょ? 時々ちらちら見てたもんね」
……え?
「華ちゃん!」
ぱたぱた、ぱたぱた。
裕太が裏方の方に軽い音を立てて走ってくる。
「だ、大丈夫!?僕っ、玲ちんが出てかなかったらあのクソ男、蹴り飛ばす所だった!」
お客に暴力はいけないよ……なんて、私が言っちゃ駄目だね。
……蹴ろうとしたし。
叩くとかじゃなくて蹴るってところがおそろいだね裕太。
思考回路似てるのかもね。
「ありがとう。仕事忙しいでしょ? 大丈夫だから仕事に戻って?」
ほら、裕太可愛いし人気だし。
「う、うん」
お客に呼ばれ、裕太はまた接客に戻った。
……うん、大丈夫。
怖くなんか、なかったから。
怖くなんて……
「あ、そろそろ時間」
ちなは時計を見て言った。
「……え? 本当?」
「うん。華は溝渕に心配されちゃったから、上がります?」
まだまだ教室は繁盛していて。
抜けても大丈夫なのかと思ったけれど、次の時間にシフトが入ってる子たちが教室に戻ってきて、交代するよと私たちに声をかけた。
あ、大丈夫だね。
……あと、玲に怒られたの間違いね。
「うん! ちな、一緒に回ろう!」
「いいね! ゆみっちも誘いますかっ」
由美も丁度時間なんだ。
更衣室で着替え、教室から出る。
「よっ、調子はどう?」
あれ、様子見に来たのかな?
「賢ちゃん」
「あ、先生。順調だよー華に接客やってもらったり!」
「え? 華メイド服着たの?」
「え? うん、丁度終わった所だよ」
そういうと、賢ちゃんはわざとらしく肩を落とすような仕草を見せた。
「もうちょっと早く来れば良かった……!」